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ストーリー
ギャラクシーif編エピソード 「連葉の庭園」EGO 開パート
面倒だったのは自分 の 在り方だけではなかったかもしれなかった。 斎木インダストリー本社 の 高層階、応接室と思わしき場所に通されてから小一時間以上が経っているように感じていた。 思わしき、というのはこの場所が神話に出てくる「楽園」のようなイメージを抱かせる故だ。 鳥が歌うようにさえずり、草花は萌え立ち、さらさらと小川が流れ、それらをてらす太陽は福音の象徴のように光り輝く。しかもそれら全ては人の手によって創られた固有空間だというではないか。 そしてそれは量子シミュレートとかいう技術だから成すことができるものらしい。 社長室長と名乗った女性はそう説明してくれたが、正直十分の一もわからない。 開はテーブルに用意された紅茶とおしゃれな意匠のクッキーに手をつける気にもなれず、ただ呼び出しをかけてきた人物を待ち続けることにする。 それがどれだけ自身の運命を揺さぶる事案を呼び寄せる事になろうとも。 それ以外に妹と自分の力の謎を解く手がかりは無いのだから。開は汗のにじんだ手を握り締める。 そして待ち人はその姿を現した。運命を司る者は自分以外いないと言いた
ギャラクシーif編エピソード 「連葉の庭園」ダークロア
寝起きすぐのようなまどろみの中に漂う感覚はいつでも心地よいものだった。あらゆる負 の 感情とネガティブなイメージが意図して排斥されているのはある意味神域と言えるのではない の だろうか。 みやこは風のささやきに包まれながら眠りに落ちようとしていた。 古代の神々との邂逅や神格の器と過ごした日々は彼女に稀有な日常と経験をもたらした。まどろむ意識の中、さまざまな創生と終末のイメージが流れ込んで来る。その感覚は流転する世界の生まれ変わりを見ているが如くだった。 正直に言ってしまうと神様という存在には見当がつかない。 みやこの想う世界というのは親しい者達とその想いが紡ぎあげるものだから。彼女にとってそれが唯一の世界の定義だった。木立に風が絡まりざわついている… 神域の鼓動はみやこへの子守唄のごとくあたりに響いていた。
ギャラクシーif編エピソード 「連葉の庭園」EGO
今週末 の 予定はかなり前から楽しみにしていたものだったのに。 愛花は苛立ちと不機嫌を隠そうともせず憮然な表情を浮かべて呼び出された場所へ向かっていた。 あのバカの監視だけでも手一杯だというのにそのバカの従兄妹が色々嗅ぎまわっているから何とかしろなどとまるで体のいい小間使いだ。何度「私はメイドでも保護者でもありません!」と言った事かわからない。 そもそも私はどこぞの剣士が英雄になったとか人工的な神様が現れたとかに興味は全く無いのだ。普通の日常をある程度確保させてほしい、それだけだ。 しかし現状その願いが一番不可能で無茶な事だという事を愛花は頭の中から意識的に追い出した。…自身の健全な世界の秩序の為に。
ギャラクシーif編エピソード 「連葉の庭園」序章
”ガーデン・パレス”ギャラクシー幕間エピソード「 連葉の庭園 」 序章 彼女は神を信じていなかった。 救世主が生まれる何十億年前に地球は生まれているし、結局は人が考え出した概念存在に過ぎないではないか、という主張をいつでもはばからずに言ってしまう性質なのだ。 そしてまたいつもの情報の海を渡り、借り物の全知とささやかな全能感を味わう。 日課などという頻度に収まらず趣味といういう枠にも収まらない彼女にとっての至上の快楽だった。現実やリアルなどこれに全部飲み込まれればいいとさえ思っていた。 そう最近会っていない従兄弟でもからかいに行くかな。遊泳に一区切りをつけた彼女は時計を見てそんな遅くない時間であることを確認してスマホを手に取った。 あいつは世情には疎いがどんな話でも真面目に聞いてくれるからな…と言い訳をしつつ相手の顔を思い浮かべた。 そのちょっとした気まぐれで電話帳を開き通話アイコンを押す。 その何気ない日常動作が真代恵を神域へと誘う契約の儀式となった。
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー隆盛の意味と破滅の意義ー
流れる風が追憶の景色を押し流していく。 それは今を生きている日常の当然な在り様なのだろう。 かつて思い描いた壮大な夢も仲間と誓い合った尊き理想も今は色褪せてアルバムの中で思い出となっている。 それを思い起こすたびに考えることがある。 もしもあの時勇気ある決断で一歩踏み出せていたらかつての理想に届いたのではないか? 何故あの頃の自分は抱いた誓いに殉ずることができなかったのか? 未熟な自分にはできるはずがないということだけが現実ではなかったのではないか。 様々な後悔が私の中を駆け巡っていた。 それでも何とかその思いと折り合いをつけてやってきて、現実に適応していたのだ。 そう彼がやってくるまでは、だ。 最初は単なる補欠の補充要因の一人でしかなかった彼は私たちの教えを貪欲に吸収し続け、見る見るうちに現場の現実を塗り替えていった。 疲労した制度の実用的な組み換えに始まり業務の根本的問題の解消ロジックの策定にいたるまで。 気づけば彼は現場の精神的支柱となり現実打破の象徴となっていた。 彼の組んだ理想像は次々と具現化してあらゆる不都合要因は彼にひれ伏していった
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー現存する祈り、厳然たる願いー
それで人々の平穏な日々と君自身の願い、どちらが大事なのかね? 選択の余地が無いはずの意思確認を改めて口にした彼女。 その意図を図りかねて私の意識は宙吊りのままだった。 いつもの冷ややかな眼差しと嗜虐的に歪んだ口角は普段以上に私の感情を蝕んでいる。 不自然に静まった議場にひとり取り残されたように立ち尽くしている私はせめてもの言い訳を紡いだ。 …それでも私が尽くしてきたことにより儀式場の安定稼働が成されたことは事実。その一点だけでもこの度の弾劾措置が不当であるとの根拠になりませんか? 保身の言葉が色濃く示された私の弁明に議場の面々がざわめく。 ”どういうことだ…彼は自分自身の献身を神格化でもしようというのか” ”まるで自分ひとりの奇跡で現実を作ったとでも思っているの” ”まさか我々のことを最初から蔑んでいたのではないか” 静まり返っていた議場の中に猜疑心の渦が生まれる。 誰もが自分自身の役目を果たして共に問題に打ち勝ってきた戦友だった…自らの尊厳すら理想の為に捧げようと誓い合った同志であるはずだった。 夢を分かち合った者たちの目にあの日の輝きは見えな
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー倫理の規定と論理の飛躍ー
永らく私に降り注いだ雨はドス黒い色をしていた。 それはいつでも私の意識を闇色に染め、希望や願望を拒絶する源であったのだ。 そこで彼女は言葉を切ると飲み慣れないカクテルに口をつけて一息つく。 静まったバーの空気は磨き上がったばかりのグラスのように澄んでいて、彼女の美貌から受ける印象を際立たせている。 本来私のような者に聞かせる話ではない事だという事実が胸に痛かった。 ロンググラスの中で涼しげな音を立てる氷すらも我が身の場違い感を咎めている気がしているのだ。 …それでもキミが居てくれて良かったよ。立場ある身としていつも振る舞うのは苦痛でね。 誰にも見せる筈のない彼女の柔らかな笑顔。 もしかしたら自分が彼女の特別な位置にいる事を許されるのか? それは不遜すぎた望みであるのは明らかだ。 それでも今彼女を責務の枷から解き放てるのは自分だけ。そうだろう? 期待と煩悩が私の中に渦巻いて事実確認という名の願望組成を止める事ができない。 許容の意思を示せばすぐにでも私の胸に飛び込んでくれるだろう彼女の姿を幻視してしまう。 しかし… 彼女を受け入れた後に私は何をした
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー予知のもたらす疑義と決議ー
二度は言わないわ…私が望んだモノだけを差し出しなさい。いいわね? 彼女は自らの要求だけを示して言葉を切った。 今までの提案や説明をまるで聞いていなかった事を明らかにされて私の胸中は穏やかでいられる訳もなかった。 …しかしこれ程の執着を見せながらも平然と自らの主張だけを通す算段なのは呆れを通り越して感嘆すら覚える。 意思疎通という言葉は管理者である彼女の辞書に記載は無さそうである。 ふむ、なるほどこれが読む者の正気を破砕する書庫の罠。 人々の願いを受け止める器である「聖杯」の自己防衛機能というわけか。 ひとまず理解不能な要因は排除して私は自分の意識内の整理に取り掛かる。 非日常の中では「その場のルール」を把握するのが最初に行う必然であり常識だ。 ソレを理解できない人間から淘汰されるのが現場の"現実"である。 私はひとつひとつ状況と把握すべき情報を確かめていく事にした。 「聖杯」…"外の世界"からもたらされた超科学製モノリス。そして "「あらゆる願望をこの世に具現化させる際に必要な器であり儀式的触媒」、「人の望む理想像をこの世に実像として映し出す奇跡
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー摂理の胎動と運命的選択ー
人形の見る夢は全てがあどけないモノなのだろうか? 彼はごく自然に語り出して皆は呆気に取られた。 人形の考える理想や幸せなど我々が作り与えたもの以外ありえないだろう。 その場の誰もが口にはしなかったが当然の共有した価値観だという考えは一致していると思っていたのだ。 あまりにも唐突な問題提起に彼以外の皆はその真意を測りかねている。 まさか本当にあの人形たちが自律した思考を持ち自分の理想を具現化するほどの能力を扱うことができると考えた? その仮定に何の意味がある? そもそも私たちの望まぬ未来のカタチを排除して造った人形たちが描く未来は私たちの望む世界にしかならないはず。。 もし仮に私たちが想像しないような逸脱したモノが生まれたとして、それを許容する選択肢は無い。 我々の理想的箱庭をただ無邪気に維持するだけが彼らの存在意義なのだから。 彼をとりまく者は皆彼に労いの言葉や休息を促す言葉をかけた。 …君はいつでも考えすぎるのが問題だからな。 …そんなこと気にすることもないでしょう。 …そんな悲観的観測を好むのは良くないことだと思うぞ。 様々な言葉が彼に投げか
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー尊厳の価値と威厳の意義ー
あの日失くした理想の代わり…?そんなものどこにあるというの。 心底落胆した彼女の瞳の色が現状の絶望感をそのまま表しているように思えた。 かつて描いた栄華のビジョンは幻となり記憶の中にしか存在していない。 その記憶の中の栄光すら現状の自分を貶めるものだと彼女は感じているのだ。 無理もない…あの日誓った挑戦の対価は自らの半生で培ってきた誇りと矜持そのものだった。 英雄として築き上げてきた信頼だけが自分たちの新しい日々を創ることのできる唯一無二の代償だった。 しかしその試みはついに継続することができなくなった。 私たちが捧げたモノ以上の日常と未来の可能性が失われたからだ。 かつての英雄に向けられた侮蔑と失望の視線はいとも簡単に私の尊厳をはぎ取っていた。 好意の援助は無くなり労力を持ってその与えられた分を返さなくてはならなくなっている。 私の得てきたモノは当然のごとく皆に分け与えられなくてはいけなくなった。 そして先ほどついに私は自分の尊厳さえ捨てて皆の為の労力となることを誓約してきたばかりであった。 私に最後に残されたのは長い間私の日常を成り立たせてく
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー審理の伴う真理の形跡ー
この黒い棺は私の心をいつも苛む呪縛の象徴だった。 かつての誓いの証を収めた誇るべき記念碑となるべく残された遺物。 それは私だけでなく志を共にする仲間たちの日常までも縛る忌まわしき”現実”そのもので在り続けていたのだ。 振り返るのすらためらう程の永い時間を侮蔑の対象として存在し続けたこの棺は途切れぬことなく絶望と無力感を墓守の一族の魂に刻み込み続けていた。 それでも一族の皆はかつて描かれたであろう希望ある未来図を実現できる者がこの地を訪れることを信じてこの棺と儀式場の静謐を守り続けた。 我こそはと名乗りを挙げた者がいなかったわけでは無かった。 むしろ一族の皆は度々現れる勇者に対して快く歓待をして迎えていたものだ。 しかし棺のもたらす圧倒的絶望と無力感は人一人の意識や決意を圧し潰すのに十分すぎるモノだった。 訪れたときは輝いて見えた勇者たちの瞳が汚泥のごとき闇色に染まるのは時間の問題であったのだ。 あれほど希求していた救いをもたらすはずだった存在は悪しざまに一族を罵り悪意を振りまいて出ていくという事が続いた。 …何度目かわからない罵倒を聞き終えた一族
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー拒絶の意味と受領の意思ー
夜空の星々を映し取ったかのような宵闇色の旗が翻っていた。 それは誓いを共にした皆と眺めた夜空の色だ。 今や遠く手の届かなくなった理想像が色褪せたあの頃の熱情を思い起こさせる。 現在に届くことなく失われたあの日の希望は今なお私の心の奥深くを締め付ける。 どんな困難にも怯むことなく立ち向かった意思の源、 どのような理不尽にも屈することなく掲げた誇り高き理想、 いかなる不条理な時も共有し続けた誓いの言葉。 それぞれが日々進む道を開拓する原動力となり理想像を形作る原資となった。 そして振り返れば仲間達と歩んできた日常が歴史となり現在の栄華の礎となっている。 それは誇るべき到達者としての証だ。 しかしどうしたことだろう…最近はこの揺らめく旗印が奇妙な不安を掻き立ててくる。 まるで今まで踏み倒してきた代償をまとめて取り立てられるかのような漠然とした感情だ。 少し感傷に浸りすぎたかな。 私は遥か彼方に向けていた意識を手元に引き戻すと寝室に引き返すべく身を翻し…気が付いた。 かつて無謀な挑戦の対価を肩代わりしてくれていた、あの盟友の殺気立った視線が私の眉間に突き
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー不義理な享受と不自然な許諾ー
”正解は唯一無二と連結するモノでは無いよ”。 自嘲気味に呟いた彼女の言葉はこの場の空気を染め直す力があるように感じる。 そう、これまでの救いの言葉の意味が消失してしまったような意味合いの言葉がこの教会の中に響いたのだ。 決定された筈の伝達事項はすでに存在意義を消失していて、メッセンジャーである私の存在価値も等しくなくなっている。 それでも”導き手”としての彼女の言葉から力が消えてしまったわけでは無い。 これからも彼女の言葉が示すモノだけが我々の望む未来を描いてくれる筈。 …そうこれからも私たちの物語は続いていくのだ。 得体の知れない不安が沸き上がる中で私は必死で悪い予感を抑え込むことに終始している。 それが何よりの不信の証だとわかっていながらだ。 しかしこの日常が唯一無二の幸せのカタチの筈。 しかしこの彼女の示してくれる道こそ私たちの救いの道の筈。 しかしこれまでの心の闇を払ってくれたのも彼女と彼女の言葉であった筈。 しかし、しかし、しかし… 際限なく続く自己弁護の言葉は私の意識と情報処理能力を簡単に塗りつぶしていく。 まるで呼吸のやり方を忘れて
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー不穏な請願と不遜な誓願ー
あなたにはそのままの私だけを見てほしい。 そのささやかな彼女の自己主張は私の心と意思を揺るがした。 彼女に差し伸べた自分の手が不自然に震えている。 自我と尊厳の全てを投げ出して象徴存在として生きてきたはずの彼女から発せられた確固たる意志表示に私は動揺を隠せないでいる。 そう自ら持って生まれたカリスマと美貌により所属するこのコミュニティの栄華を請け負ってきたその姿は正に救国の聖女であり皆の精神的支柱そのものであった。 彼女が見せる笑顔は万軍の士気を青天井に高めコミュニティへの忠誠に命さえ投げ出させる絶対性を持つ。 彼女がもしその胸を痛め涙を一筋流せばその悲哀と慈愛は民衆の心を打ちその運命を打ち破る奇跡の源泉となるのだ。 このコミュニティにおける彼女の存在は単なるシンボルとしての偶像にはとどまらない崇敬の対象となっていた。 そんな彼女の愛情や慈愛は常に皆に平等に分け与えられるものというのが皆の一貫した共通認識でありコミュニティ内での平穏を保つための絶対的不文律であり続けた。 しかしその聖なる規律は他ならぬ彼女自身の意思で破られた。...
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー儀礼としての歓待、儀式としての感謝ー
あなたが今何を望んでいるかはわかっているつもりよ。 その彼女の言葉に私の心はざわついた。 確かに望んでいたものは全て彼女からもらったモノばかりだ。 そう、自尊心や市民権、欲求を満たすための力や自分の尊厳を守るための価値観や論理武装に至るまで。 そして私が理想の自認像を得ることを彼女は何よりも喜んでくれていた。 それは誰もが思い描く幸福の在り方だったに違いない。 …しかしお互いが理想の関係を維持できたのは遠い昔のこと。 私が社会の一員となって庇護されるだけの存在でなくなったとき、当然彼女からの贈り物は手放さなければならなかった。 満たされていた子供時代はとうの昔に過ぎ去っていた。 大半の人間が誰もが通る当然の通過儀礼なはずだ。 私も当然それを受け入れて世の中における「普通の人」となった。 あとは愛する人と家庭を営み子を育てて静かに土に還るだけの人生を全うするつもりだった。 そのころ満たされていた私は彼女と過ごした「完全な日常」を忘れていた。 人間らしい欠落を抱えて生きている事で自らの異常性を忘れていられたのかもしれない。 だが私の存在因果は私自身の
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー近視眼的願望がもたらす必然的代償ー
さあただひとつの叶えたい願い…決まったかね? 問いかけられた彼女の言葉に対して即答できない事に私は戸惑いを感じている。 この世の奇跡でしか叶わないだろう私の願い。 そもそもこの場に到達すること自体が不可能の象徴として語り継がれてきたモノなのだ。 それでも度重なる偶然と幸運により彼女との邂逅は果たされた。 あとは請願を受諾してもらうための誓約を捧げて私は望み通りの人生を手に入れる。 この魂が俗世の穢れに沈む前の洋々たる日常を今こそやり直せるのだ。 最早現実という名の奴隷主に従属する義務のない世界で私は「私」をやり直す。 本来得られていたはずの燦燦とした日の光の道を今度こそ取り戻すのだ。 何千、何万、いや何億回と繰り返し練習したその請願の誓約の紡ぎ方。 今こそ万感の思いを込めて奏上するときである。 …しかし妙な感じがする。 違和感というにはあまりにもささやかな何かの予兆めいた感覚が私の意識の隅に渦巻いている。 別に見過ごしても構わない程度のこの不快感は日常の最中であれば脳裏にかすめることもなかっただろうモノ。 しかしこの期に及んで何かの不都合要因が起
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー危うい理想の経過相談ー
…奇跡なんか起こらなければ良かったのに。 ついに漏れ出た彼女の言葉は私の心の奥底を抉った。 信じられない、受け止められない、理解などできない。 彼女の言葉の意味するところをわからないわけはなかった。 それはただの拒絶というだけではない「私達」のアイデンティティを否定することだ。 盛大に花開くはずだった未来予想図はたった今霧散したのだ。 誓いを立てたあの日の彼女の笑顔は「私達」に与えられる祝福の象徴だった。 あらゆる可能性や未来への展望は華やかな成功を支持してくれていた。 それなのに今この場にある現実は何だ? まとまらない思考と感情は現状認識を拒絶し私から思考能力を奪っていて、絶望に相対することは不可能である。 そんな私を見るからに忌々しく睨んでいる彼女。 その禍々しい相貌が望むのは「私達」の産み出した運命を清算することだけだろう。 この神域の唯一無二の救済になるはずだったモノ。 その息の根を止めるべく私は「それ」に手を伸ばした、その時。 無邪気な殺意がこの場に満ち溢れて私達の命脈はあっさりと刈り取られることとなった。 「根付いた因果を剪定する意義
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー自責の代償と受領した対価ー
せめてもの希望を見つけられたのはあの新月の夜だったと思う。 今やただの回顧録に成り果てた私が書いたカルテはその一文から始まっていた。 引き受けたときは私なりのやり方でいいのなら、との条件を飲んでもらってからだった。 あまりにも熱情的な依頼者の弁舌ぶりに初めは驚いたが話を聞くうちにその感情は次第に私の共感を引き出していくことになる。 依頼者である彼はあまりにも楽しそうに事の顛末を話す人物であった。 あの人は誰もが驚くような難事を微笑とともに解決していったとかその傍らには誰もが目を見張るほどの異能者の美少女がいたとか。 あの人の周りにはいつでも談笑の輪が組まれていて、その中には歴史の英雄や偉人なども数えきれないほどだったとか。 それでもその瞳の中にはいつでも寂しげな光が灯っていていて誰もがその孤独を共有することはできなかっただろうとか。 さすがに誇張が過ぎるだろうと感じたエピソードは数少なくなかったが、それでも彼が「その人」に救いを与えて欲しいのだという思いは変わらなかったように思う。 そして彼はあらかた話を終えてその眼差しを厳しいものに変えて私に再
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー常識と定石が求める普遍性の果てー
やんわりと溶けた柑橘の甘みが私の心を解いていく気がした。 厄介者として蔑まれた事も遥か遠い昔のこととなった。 もはや不都合な現実を塗り潰し続ける労力を日常的に割かなくてもいい。 ただそれだけの事が私の心の平穏を担保してくれている。 そう、秩序の穴を意図的に抜けてこようとする不埒者やコミュニティ内の尊厳を食い荒らすだけの無法者対策に頭を悩ませてきた苦悩の日々も今は懐かしくすらある。 これからは私の望む理想像だけがこの領域の「現実」を規定する。 抑えようとしても溢れ出る歓喜と到達感に心は弾み、自己認識すら浮ついてきている。 無理も無い。 私に突きつけられてきた理想像は自己否定と自らの尊厳を貶める事だけを要求するモノだったからだ。 だが「聖典」を基とした世界の"正規フォーマット"が安定稼働を始めた今、その理想像の在り方も塗り変わり私の存在を賛美してすらいる。 これからは世界各地に広まってしまった「聖典」のレプリカや解説書を順次焼いていく事が私の役目となるだろう。 それがかつて同じ理想の元で日々を駆け抜けた仲間たちとの誓いを遂行する意味となるはずだ。..
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー呪縛の目論見と夢の継承ー
私の焼け爛れた魂を見通すような緋色の瞳。 侮蔑があってもおかしくないその眼光の中には明らかな憐れみの色が浮かんでいた。 その眼差しから受け取れる思いが私の心を激しく揺さぶってくる。 今までの道のりが急に脳裏にあふれ出していく。 初めて受け入れてもらった時の歓喜と高揚感。 期待に応えられたと思える結果を出せたときの到達感と多幸感。 そしてそのために労力や大事なものを捧げたとき労ってもらったことへの感謝。 それら全てが私の生きる糧となり望む未来が開けていく毎日がとても愛おしかったのだ。 それは全ての可能性が幻想となってしまった今この時でも私のすべてであることに変わりは無い。 例え私の作り出したもの全てが抹消され皆の心から忘れ去られたとしても私自身の尊厳を構成していた要因は不変である。その確信はこれからも生きるための原資として変わらぬモノ…そう信じていた。 今までと変わらぬ寵愛が今後受けられなくなるだろうことが心から惜しくはあったが、それでもこの神域の片隅でこれまでの日常を愛でつつひっそりと身を引こうと自分を納得させていたのだ。 それなのに先ほど通達さ
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