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ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー現存する祈り、厳然たる願いー

  • 5 日前
  • 読了時間: 4分

それで人々の平穏な日々と君自身の願い、どちらが大事なのかね?


選択の余地が無いはずの意思確認を改めて口にした彼女。


その意図を図りかねて私の意識は宙吊りのままだった。


いつもの冷ややかな眼差しと嗜虐的に歪んだ口角は普段以上に私の感情を蝕んでいる。


不自然に静まった議場にひとり取り残されたように立ち尽くしている私はせめてもの言い訳を紡いだ。


…それでも私が尽くしてきたことにより儀式場の安定稼働が成されたことは事実。その一点だけでもこの度の弾劾措置が不当であるとの根拠になりませんか?


保身の言葉が色濃く示された私の弁明に議場の面々がざわめく。


”どういうことだ…彼は自分自身の献身を神格化でもしようというのか”


”まるで自分ひとりの奇跡で現実を作ったとでも思っているの”


”まさか我々のことを最初から蔑んでいたのではないか”


静まり返っていた議場の中に猜疑心の渦が生まれる。


誰もが自分自身の役目を果たして共に問題に打ち勝ってきた戦友だった…自らの尊厳すら理想の為に捧げようと誓い合った同志であるはずだった。


夢を分かち合った者たちの目にあの日の輝きは見えない。


皆が皆自分の「取り分」の維持に必死でありかつての崇高な志に満ちた澄んだ目をしている者はいなかった。


異端者として吊るし上げが行われるのも時間の問題だろうか。


私は絶望という言葉すら生ぬるい失望感を抱いて彼女への説明義務を続けることにする。


…私は貴女が示す救いに賛同してこの身を捧げることを誓いました。その為に身に余る力を賜ったことを心から感謝しています。そして皆の為に命を懸けることにも異議はありません。ただ…


私はこれまで作った秩序の在り方や日々の平穏の維持について私見を提案し、それが皆の望むものでなければその旨を受け入れこの地を去ることを述べて言葉を切った。


未だに疑心と熱情が冷めやらない議場の空気からは自分に対する返答が出る様子は無い。


…これ以上の意思疎通を期待するのは無駄かな。


私は名残惜しそうに皆の顔を眺めると気持ちを切り替え弁論席から降りようとして、不自然な気配に振り向く。


そこにはいつでも自尊心の拠り所になってくれた彼女の変わらぬ姿があった。


何か最後に伝えるべきものがあるかと一瞬ためらいはしたが、無駄な未練を引きずるのも無しだろう。


軽い会釈だけをして今度こそこの場から立ち去ろうとして妙な既視感が私の意識を焼いた。


…この光景、”何度目”だ?


一瞬の意識の中に刻まれた永劫の記憶がフラッシュバックしていく。


「今度こそは”成功”してね?」


いつの間にか奈落の底へ引き込まれた私に届いた最後の彼女の言葉は一際印象的に聞こえた気がしていた。



「この度の提案だがこれでは満足いく返答は無理というものだ。藤御堂のご息女ともあろう貴女が外部折衝の基本を踏まえないことは無いと考えるが、その真意を伺えないものかな?」


「七星神器”メグレズ”様。私どもとしても礼を失する提案をしたつもりはございません。貴女方の持っているカードの価値は貴女が何よりご存じのはず。そこはフェアなトレードをしてはいかがですか?」


メグレズと悠華の切り結ぶ様子は明らかにこの貴賓室の気圧を急激に下げていた。


…そもそも勝手に表れた侵略者と友好的な検討をしろというのが気に入らないな。


悠華は至極当然なはずの思考と感情をなんとか宥めながらプレゼンの主導権の取り方を模索していく。


地球での活動拠点やリソースの確保の為にEGOのインフラを融通しているのがかなりのイレギュラーであり本来ありえないことなのだが、そこは「アスクレピオス」を通じて得られる莫大なメリットにより超法規的措置が為されている。


そして「彼ら」が介在することで双方が殲滅戦を選択しないメリットを共有しているのだ。


それであっても「彼ら」は基本破滅誘因因子そのものであり、基本的にイレイザーである。


一度地球圏に対する強制制圧策が採択されたなら「彼ら」は私たちの日常を何の配慮もなく破壊するだろう。


それでも…


悠華の悩みの種はそれだけでは無い。


「アスクレピオス」によってもたらされたイレイザー由来のオーバーテクノロジーはすでに今の現状を維持していくのに不可欠な要因になりすぎているのだ。


そしてそれを維持するコストを言い値で払わなくてはならない。


それが今の”現実”の値段なのだ。


あまりの感情の濁流に沸騰しそうになる悠華の意識はただ事では済まない状態だ。


しかし右から左へ予算を通していては自分と関係各位の命の値段すら不当に値切られかねない。


今が一番踏ん張りどころなのだ。


悠華は改めて”商談相手”へ提案をプレゼンしにかかる。


それはこれからの運命の価値を決める戦いだ。


メグレズはその様子を冷ややかに観察しその手際を図ろうとして、この場に不相応な微笑ましい笑顔を見せる。


正に相手が親におもちゃをねだるときのような様子に見えてしまったから。


…歴史の新たな1ページの内容が決まっていった日の出来事だった。



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