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ストーリー
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー自我意識境界の観測意義ー
「ふむ、不文律や”賢い選択”に疑問を持てる程度のレベルには達したか。いいだろうその案を承認しよう。 しかし「鏡面限界」に達していることが間違いないと?しかたあるまい…プランBの手配に移れ。」 リユニは目の前で交わされた会話の意味を受け止められずに自らの師に指示を仰ぐ。 だが彼女の上長である司祭は首を横へ振って視線を切った。その一挙動が示すのは暗黙の了解に従えという事のみだ。 そしてこの聖堂内の一室で交わされる言葉は正式な勅命として各部署に通達されるもの。言わば教皇庁の意思決定と同義なものとして扱われるという事だ…その意味が理解できない者はここに存在していない。 さらに「鏡面限界」という固有名称は最近度々使われるようになっていた用語のひとつ。 「自意識の認識できる事象は自分の鏡写しの姿を越える事はできない」という論証だ…それは暗に「人間は奇跡を起こすことができない」という定義を持て、との命令でもあった。 それでもリユニの意識は疑問の渦に自我を蝕まれている。黎明の女神の顕現や天界や冥界からの侵攻、かつての小さな大天使による因果の崩壊…自身が想像できる
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー切望と待望の相容れないスタンスー
そう、それが歯車としての理想のカタチね。それとこの誓約の期限はいつまでだったかな? …しかし白々しく確認してくるその口ぶりには毛ほどの悪意も感じられない。 それどころか「この場面で配慮をしてあげてる私は慈母のごとき存在」と顔に書いてあった。 愛花はそれを渋々許容してあげることにして話の先を促した。 それを好意的受容と見て取った彼女はテンションのギアをさらに上げていく。 満面の笑顔で語られる事案の経緯や自らが成した成果をここぞとばかりに列挙していくのをじっと聞いているのはさすがにキツい。しかしここで暴走されたらわが身の危険だけでは済まない…重要機密が解説付きでネットワークに放流されることにも考えねばならない。 万が一彼女の息のかかったエージェントが機密共々他勢力に寝返る事があれば、奇跡的に保たれているパワーバランスはいとも簡単に崩れて現状は殲滅戦に転がり込むだろう。 それがどれほどの甚大な災害となるかは考えるまでも無いことだ。 愛花は今更ながら丸投げされたこの場の相手役を辞退しておけば良かったと十数度目の後悔に苛まれている。それは戻ることのできない
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー未踏と未知が抱える神話ー
そう、元々絶望を受け止められない程度の器が夢や理想の重みに耐える事なんてできない。必然だと思わない? それとも様々な倫理や良識を犠牲にして専用の器を造る…?このひとつの禁呪のためだけに。 別に私は構わないけど、貴女にはそれなりの対価を支払ってもらうことになるわね。 必死に笑いをこらえて思わず吹き出しそうになっている彼女の顔は赤子の笑顔より無垢なものに感じられる。その様はまるで「ちゃんと言葉が喋れるの?自分の足できちんと歩ける?」とでも問われているかのようだ。 ステラは想定済みな筈のその様子に改めて危機感を覚える。 いや、実際感じているのはそんな簡単な感情では無い。失望と落胆がないまぜとなった憤りとも悲しみとも言えぬ情動の迸りだ。 それに小一時間ほど続けた言葉のやり取りは意思を疎通するためでは無かったらしく、この場の空気は瘴気で煮詰まった異様な魔力を発している。 しかもあの古代語解説はこの結界を編むためのキーワードだったようだ。これは何が召喚されても不思議ではない…神代の怪物や神格を顕現させることも容易だろう。 しかし何のために、今この場で私を儀式
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー願望と要望の折衝攻勢ー
…あなたの描いたシナリオで事が進むと本気で思っていたの?呆れた話ね。 そもそも因果の組成に疑問を持つなど不遜にして傲慢。直ちに改めなさい。 あらかじめ予想していた通りの降伏勧告が彼の意識の中へ突き立てられた。 膝をつくことも落胆することも忘れて呆然とするその姿はあまりに痛々しく、見るに堪えない。 ざわつく側近達は目の前のやり取りを見て様々な思惑をささやき始める。 アシュレイ公のご判断とはいえあそこまできっぱりと処断するのはこの後の関係に亀裂を入れかねないのではないか? いや公は人間の権利を元々確保する気が無かったのでは? いくら血族の統治を担う公であったとしても人間の側の協力体制を踏みにじるような事はするべきでは無いだろう。 その漏れ聞こえる一部の声を耳にして夜羽子は危機感というモノの重さを感じている。 これほどに胸の内がざわめいたのはあの時の彼女との邂逅以来だな…これが歴史の転換点となる予兆なのか。 そうであるならば我が一族の行く末ももはやお母さまの一存で決める体制から脱却しなくてはやっていけまい…様々な要素が血族の断絶と滅びを呼び寄せているの
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー要請と批准の越えられない関係ー
「そう、プラスかマイナスかでいえばマイナスね。」 栞の言葉は簡潔に過ぎるゆえにこの場の空気に染み渡った。 今まで誰もが感じていた違和感に誰もが踏み込まなかったのはまがりなりにも日常を支えていた不文律の重要性に一目置いていたからだ。 しかし栞はこれからの日常がその暗黙の了解で維持されないことを鑑みて処断の意思を示した。 そして当たり前の存在であったそのモラトリアムを崩す事や運営基盤の組みなおしを通達する段になった… だがこのまま粛々と議場の進行をするのはまずいのではないかという空気が濃くなるのを誰もが感じている。困惑と逡巡の色がこの場の代表格の顔全てに示された。 そのタイミングを逃さず古株の元締めの代表が不快を隠さずに声を上げる。 「お言葉ですが鹿島様。あなた様がこれまでの重大事案の解決に不可欠な存在であった事に誰も異論は唱えますまい…それでもわれらの日常の決まりや組織の現場運営のやり方にまで手を伸ばすのはいささか越権事項ではないのですか?今意見を取りまとめた彼としてもこれ以上立つ瀬を無くされては若い者たちに示しが付きませぬ。どうか賢明な判断を賜り
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー渇望と展望の呉越同舟ー
戦場のルールを変えるのは裁定の女神だけでは無いかもしれませんぞ?皇女様。 帝室の相談役である老魔導師のご高説はその言葉で締めくくられる。 珍しく律儀に聞いていたラユューであったが、最後のその一言が気に入らずに今得られた知識を投げ捨てた。 わざわざ呼びつけて戦略概念指導を望んだのは他でもない私自身だ。 しかし直接的な「勝利条件」の達成への道筋とかセオリーの抜け穴の見つけ方とかありふれた自己啓発論が聞きたいわけではなかった…そこらへんの懐疑的話術士の書いた本などに時間を割く日々は当の昔に卒業している。 その辺の事は彼も重々承知のはずなのだが、それでもその口から出る言葉は自らが積み上げてきた「成功体験」を大幅に脚色した眉唾もののエピソードだ。 自我意識汚染の弊害が出る前にお引取り願うか?ラユューはメイドを呼びつけると未だに持論陶酔の余韻に浸る老魔導師に退室を促すように命じた。 彼は帝室の皇女に持論を披露した栄誉を語り継ぎ、その後の日々を悠々と過ごすだろう。 その顔に満たされた優越感の色に感情がざわつくがここは威厳ある態度で送り出さねばなるまい。...
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー説明と釈明の為の待機時間ー
しかし、先代が締結していた「茜色の約束」を履行できる魔術経路はまだ残っているのでしょう? ポーラは愛用の眼鏡を外してなるべく優し気な面持ちを作って自らの従者に語り掛けた。 最低限「調査中で目途がつかない状態です」ぐらいは期待していたが、それすら望めない状況であることはこれまでの説明で明らかだった。 この場に集まることのできたアルカナの面々は石像のごとく固まる従者を見て、それぞれが議場の主であるポーラへ視線を投げてきている。 無理なのか? 無謀であったのか? …もしかして無策なのか? それぞれの疑念はポーラの自我を炙り続けてくる。想像はしていたがこれほど事態が困窮してくることを想定したくなかっただけかもしれない。 さらに悪いことに理解者であり実質的な実働部隊を動かしている世界のアルカナの彼女は評議会の方の問題を担当しておりここにはいてくれない。 この場での公式見解は自分がまとめなくてはいけないが、現場からの報告書だけでは結論が絞り切れない。 あまりの自分の無力さはこの場の責任の重さと相まって意識を白く塗りつぶしてくる…だが忘我したところで事態を進め
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー受容と承認の規格維持ー
そういう事ではないのだよミカエル…君も現地統括をしているならばわかっていてくれて当然だと思っていたのだがね? 唐突な本国からの秘匿回線で伝えられた通達は不穏で抽象的な言葉で始まった。 「恐れながら閣下、こちらには最早十分すぎるほどの戦力があります。このまま攻め落として何が問題と言えるのです?」 意図的に質問を質問で返したミカエルの瞳に怜悧な光が宿ったのを見て、本国の宰相は肩をすくめて困った顔をする。そして聞き分けのない子供に噛んで含めるような話をしようという姿勢がいよいよミカエルの感情を逆撫でしていた。 「そちらの星にもゲームという名の文化があるだろう…私たちの未来もそういったものでこれからの道を占っている。そして流出した我が軍のモノリスはなかなかに面白い現象を生み出していると聞いたぞ。それをただ焼き払うには惜しいものだ。それに」 …自らの愉悦に浸る宰相の言葉はミカエルの意識まで届かない。当然だ。 神の視点を気取った不遜の輩の話を理解する気は元から無い。 そしてミカエルはこれからこの宙域に派遣されるという新しい恒星間キャリア母艦に何が積み込まれて
ギャラクシー”フォールンマテリアル”ー許容と調和のシナリオ想定ー
あれからの日々は私に何をもたらしたのだろうか?今は確信できる答えは無い。 しかし遠からずその答えを問われる場は訪れるだろう。 …それを宿命とか運命とか表現する事はしたくないものだ。 すべては自分の意志決定の積み重ねで選んだ道だという事を忘れたくは無いから。 詠はいずれ来るに違いない再会の為に伝えるべき言葉を紡ぎ続けている。 彼らにとっては「試練の日」そのものになるだろう確信があるが、自分の立場上何を伝えるかは厳正に制限されている。その時に彼らが「回答」にたどり着けていることを祈るのみだ。 詠の考える理想を体現し、具現化し続けてくれた兄と家族や親しき友人達…七大天使となっても頑なに手放す事をしなかったかつての日々の記憶は今でも詠の大切な拠り所に変わりない。 お兄ちゃん…必ずたどり着いてね。水瓶座の時代のその先へ。 バラキエルとしての行動原理にさらされ続けた自分の意識が早晩飲み込まれるのは決定事項に違い無いだろう。だがその時が来てしまったとしても希望の灯を届けてくれる存在であってほしい。 限りなく夢想に等しきその願いを詠は抱き続ける事を改めて誓った。
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー信念と疑念が呼ぶ確定事項ー
扱う者の意識を例外無く蝕む蠱惑の器。 ガラス張りのその心はいつでも理想像を映し続ける鏡面存在であり続けた。 その在り方にステラは改めて自らの胸の内にしまってきた後悔を噛み締める。 自分に何ができれば事態はここまでにならなかった…とか考える傲慢を飲み込んで器に蓄積された魔力を解析していく。 あまりにも生々しく詰め込まれた人の意思の成れの果てがステラの意識を支配しようと絡みついてくる。 それらを「理解」し取り込むことがせめてもの贖罪になると信じて「彼ら」の歩んだ道のりを踏襲していく。 あるものは不老不死を自らの中に幻視した。 あるものは不滅の理想に恋い焦がれた…そんなものあるわけが無いという「理性」はもはや「現実」として成り立たなくなっていた。 そして果ての無い成長と発展などありえないという「真っ当」な主張で器を扱い人心掌握を試みた者もいた。 無論彼らは器により自らの願望を皆の前でさらけ出されて醜態をさらし、表舞台から追い落とされたのは記憶に新しい。 それでも我ならば、私ならば大丈夫と手を伸ばす者は絶えずに需要はどんどん高くなり続けて対価は青天井にな
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー恭順の意思による矛盾の解法分析ー
未だに”ドライブ・シフト”の効果が試算値以上に現れないとはどういうことだね? 君にはかなりの無茶をしてリソースと権限を持たせたのだ…責任を持たされる私の立場も考えてくれよ。 呼び出された重役用の私室で愛用の煙草型チョコをもてあそんでいる彼女の口から出たのはあからさまな糾弾でも叱責の言葉でも無かった。 そう、心底疑問で理解できないという感情が年端のいかない目の前の少女から発せられている。 恋に恋するような印象の容姿からは測りかねないその瞳の老練な色は何ともミスマッチでこちらの心をざわつかせている。 いかなる理屈で彼女がその姿を維持しているのかは気にならないが、その瞳にどれほどの歳月と経験が染みこんでいるかと思わせることこそがいつでも魔性の魅惑を持って私の自我を揺さぶる。 叶わない理想にこそ無上の魔力が備わっているものだ。 この瞬間にたどり着くまでが今までの努力と献身の存在理由だとしてもいいのかもしれない…そんなことがすんなり胸の奥に落ちる気がしていた。 そして今まで恋焦がれた筈の「現実」に飲み込まれた彼は勝算の無いこの場の勝負の為に自らの蓄積した信
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー保有と許容の相互関係ー
”アルカナ・コード”のラインが動くことによって今までの罪も不敬も許容されるだ、と? 奴は何を考えている…あれの真意を知っているものはいないのか。ああ、お前では話が通じんな…「スナップ・キッズ」の管制塔へ非常用回線で繋げ。私が直接問いただすッ。 厳かな拝礼の場である筈のこの場が一気に俗世の空気に満たされて、リユニは愕然とするのも忘れて意識を手放すところであった。目を回す余裕すら今は用意されていないようだ。 飛び交う固有名詞の渦と喧騒は今までの信仰が積み上げてきた静粛な内的世界を明らかに支持していない。 私が今まで見てきた世界にこのような要素が含まれていたか?それとも大司教様の笑顔も信徒の皆の穢れなき信望も私の中にだけ存在していた幻像であったのか? リユニは突如崩壊した自我の拠り所がそのまま霧散していくのを感じた…まるでそういう魔法でもかけられたかのようだ。正義と理想の形も揺らいで輪郭を失っていく。 そしてつい先ほどまで神格化すらしていた偶像へ鋭い視線を突き刺した彼女は、混沌渦巻く聖堂の中を歩きだしていた…これまでの自分の歩みの意味を確かめるがごとく
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー純情と熱情の伝達不備ー
ふむ、もしヴァルハラに至ったなら何を望むつもりだね?もしかして世界の救済とかではなかろうね。 …そこから紡がれた言葉は予想通りの情報の羅列だった。諫めるでも咎めるでもない情報の束。 なんとかそれを要約すると「いまだに神域や天界が清らかなものだとは思っていないよな」という感じであった。 自分の意識内の「現実」は唯一無二という前提は普遍的。 そういう事にしてあるのは言わなくても察しろというのはいつもの事である。 それを飲まない人間を排除してきたことも彼にとっては正義。聞き手も選別されすぎて私以外は残っていない事は考えたくない限りだ。 そして小一時間語りつくした彼は「「神様」にも都合が悪い事は存在するさ当然だろ」、と誇らしげに胸を張って演説を締めくくった。これほどパーフェクトな論理展開は望めない!との確信が痛々しいほど伝わってきて胸焼けがとまらない…聞き手の未来を開いてやった、との満足感に陶酔するその姿が見るに堪えない。 しかしその思考の積み重ねと自身のアイデンティティこそが「清らかな世界」を体現させる意識の鍵だという事を自覚しないままに談笑は続いてい
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー意義と動機の真剣仕合ー
なあ、このままじゃこのネタが使えないじゃないか…しっかりしてくれよ”パラサイト”。 投げかけられた言葉はあまりにも空しくこの場に響いた。 このスキームが組みあがるまでに費やされた時間と様々なリソースと多大な「尊い犠牲」。 それらに何の敬意も示すつもりのないクライアントの言葉に空気は凍り付き、関係者一同の喉は干上がった。 かつての「聖典」が失われてからの失望と混乱の中で、そして様々な願望と妄執の中で必死に組み上げたこのネットワーク体系はもはや幻想の器では無い。実際の現場に稼働し、能力者達の命を繋いでいるライフラインの一つになっている…決して生贄の効率的利益化の為だけに存在しているわけではない。 携わった研究者達はその志を掲げて今にも反論を開始する算段を組み始めたが、「彼」からの一瞥を受けた瞬間に沸騰した意識と義憤は一気に冷めて感情が凍結される。 そう、この領域の全てを賄っているリソース全てが「彼」の資金力とマネタイズによってのみ成り立つという「事実」が一同の意思と精神を隷属させている。 そして「格付け」が終わったこの場において、無念と無力さを意識内
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー衝動と情動の螺旋回廊ー
そう、あの国の皇族しか使えないという例の術式…俺用にカスタマイズができるのだろうな? グラスを開けた直後に出てきた言葉がそれだということが事態の危急さを端的に示している。 どうしてこの場でその選択肢を選んだのか、それしか選ぶ事ができなかったのかはこちら側で勝手に察してくれと言わんばかりの威圧感がこちらに向けられていた。 かつての女神顕現の前はこのような抜け穴を漁らずとも確保されていた我々の「権利」。 相手は超自然の存在で原理や摂理も思いのままだと思い知らされた日々…しかしこれまでの蓄積が全部無に帰したわけではない。 だが、磨きぬいた銃の扱い方も超常能力者との戦い方もことごとくがリークされ丸裸の組織内部の混乱はいまだに続いていた。組織の上層部が丸ごと丸め込まれた程度では今のこのガラス張りの展示物扱いが現実となっている事に説明がつかないではないか? まずは納得いく説明から入るのが筋…というまともな意思疎通も望めないこの場では周りのSP役の能力者達に力づくで屈服させられるのがただ一つの現実に違いない。 一応用意してきた儀式用の祭具はもちろんダミーだ。用
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー論議と稟議のオリジナルロンドー
この場に満たされた灼けたバラの香りが全てを語っているようだった。 ここに至るまでの日々が走馬灯のように再生されていった。 理想の始まりを語り明かした日々。 初めて成果が出た日の祝祭めいた夜。 これからの悠々たる未来を思い浮かべて杯を酌み交わした宴の熱。 今思い出すとその全てがセピア色に色あせている事を殊更に実感する。 かつて魔術炉の中で生きたままくべられた同士達はエネルギー変換される瞬間まで私の掲げた理想を信じてくれているように見えたのは性質の悪い自己陶酔だったのか?確かめる術は無い。 そしてこの場に至った事でできることが何なのかまだ想像もつかないが、引き返す事は今まで犠牲にしてきた全てに対する背任と冒涜そのものだ。到底許されることでは無かった。 そう、目の前で手を差し伸べてくれている少女の手を取ることから始めよう。 プリンセス・ローズの持っている権限と異能、その秘術によって私は今まで払ってきた対価を取り戻すのだ。 …歪な使命感と邪な打算を包み隠している気でいた彼の意識は次の瞬間冥府の扉をくぐることとなった。 「プリンセス・ローズ、ローズマリー・
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー始点と原点の懐古記述ー
このカクテルの名前、「シリウス・トレイル」なんてどうかな…そう、全ての星の基点が辿ってきた道。 ちょっと壮大なストーリーを感じない? それはセッティングされたこの場に興味無さげな真純の意識の扉をノックした最初の言葉だった。 彼女はその様子を確認するとその鳶色の瞳を輝かせて、たった今生まれたばかりの愛し子を嬉しそうに眺める。 あまりにもその様子が微笑ましすぎて真純が呆気に取られているとロンググラスが彼女から差し出されてくる…ここで拒否する権利は認められまい。覚悟を決めてグラスに向き合う。 そして彼女の意識が溶け込んでいるかのような宵闇に似たその色合いは何ともなまめかしく感じられる。 アルコールは得意ではないけれど雰囲気だけでも味わってみるかと一口含んだその時、真純の意識は重力から解き放たれた。 …まるで彼女の描いた満点の星空へ吸い込まれていくように。 「それが真純さんがあの人のお酒にご執心になったきっかけですか…いちいちお洒落な導入で共感力が働きませんね。結城さんはそういうの得意な方ですか?」 「近藤さんはそういう話嫌いなの?私はこういう話に憧れち
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー童話と寓話の主体構築ー
…この前の報告にあった、お前肝入りの「イージス・チャネル」とかいう枠組みはちゃんと使い物になる保証があるのか? 開口一番で突きつけられた”現状確認”に意識が遠のくのを感じている。 この場に同席している斎木遊名のほくそ笑む様子が手に取るようにわかる…「それ見たことか」と内心快哉を叫んでいるかと思うと意識が沸騰しそうだ。 お目通りの前に十分すぎるほどに検討していた想定問答は根底から覆されて頭の中は真っ白。お手上げなどという状態は数秒前から振り切っていた。 しかし「月光妃」の御前で木偶人形を演じたあやつの轍は踏むまい。 私の作り上げた組織経路は目の前のご老体の影響など木の葉の露ほども気にならないレベルで組みあがっている…いつまでもそのシナリオ通りの歴史が紡がれ続けると信じているといい。 そう、ラプラスの悪魔だろうが「公用地」の末裔だろうが関係無い。いずれは斎木のネットワークそのものも我が「経路」の触媒として機能する未来は確定なのだ。 バーナーの炎を思わせる彼の発する熱気は謁見室の不快度を飛躍的に上げているが、誰もそれに言及しない。 その熱さが常人の精神
ギャラクシー”フューチャーメモリアル”ー倫理と理性の必定定義ー
この独自造詣からなる死の刻印…ミス・オーロラコードの物で間違いあるまいな。 現場に残されたそれを鑑定したジリアンは忌々しげな視線で魔力感知を止める。残された微弱な魔力でもこれ以上触れていたなら術者の呪いは感染力を持って侵食を始めるのだ。 それを身に染みてわからされた苦いあの日の記憶はいつでも自らの慢心を戒める枷としてジリアンの自我と意識を炙り続けている。 しかし破滅しかもたらさない筈のその刻印はあまりにも優雅にその空間を彩り、自らが祝福の証であるかのような存在感を保っていた。 …当代のカバラのセフィラたるヴィルヘルミナ様からのお達しとはいえあの件について探るのは身の破滅に繋がりかねないのでは? 「封鍵の担い手」としていくつもの禁呪や失伝を管理していた身ではあったが、タブーというのは例外無く存在するものだ。すずは書庫の中でもトップシークレットな事案関連の資料や魔導書が収められている領域に足を踏み入れてからその考えが胸をざわつかせているのを自認できずにいる。 「いいかね桜井君。これは我が部署の存在意義をあの方達に改めて認識してもらう為に必要な職務だ。
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー現状と戦場による希望的観測ー
今度の事態は「カトブレパスの視界」絡みだと? 前線に必須情報を伝えるラインは何をしている…意図的な分断は無かった筈だ。 一個師団が丸ごと崩壊してもおかしくない想定が脳裏を駆け抜けて吐き気がしてくる。 そう、「カトブレパスの視界」は有効範囲内の有機生物に心理学で言うところの「ゴーレム効果」を重度にかけるもの。簡単に言えば「培った自信や蓄積したスキルや固有能力を強制的にレベル1の状態にする」という反吐の出る異能だ。 それゆえに「視界」の中ではどれほどの英雄や救世主でも簡単に「村人A」状態の石像同様にしてしまう脅威の力である。 しかもその様子を目の当たりにすれば周囲の者達はまともな戦意はおろか逃げ出すことも考えられない状態になるが道理…即死を振りまいてくれたほうが遥かにマシという壮絶なものだ。 どうする…?今情報を伝達してはより不安と混乱を助長するだけ。しかしあの魔人を止められるのは「視界」の中で戦闘を続行できる心理掌握系能力者に限られる。 八方塞がりの状況の中、彼は不意に一人の少女の顔を思い出した。 彼女に借りを作るというのは寿命を十年差し出すくらい
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