ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー審理の伴う真理の形跡ー
- 5 日前
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この黒い棺は私の心をいつも苛む呪縛の象徴だった。
かつての誓いの証を収めた誇るべき記念碑となるべく残された遺物。
それは私だけでなく志を共にする仲間たちの日常までも縛る忌まわしき”現実”そのもので在り続けていたのだ。
振り返るのすらためらう程の永い時間を侮蔑の対象として存在し続けたこの棺は途切れぬことなく絶望と無力感を墓守の一族の魂に刻み込み続けていた。
それでも一族の皆はかつて描かれたであろう希望ある未来図を実現できる者がこの地を訪れることを信じてこの棺と儀式場の静謐を守り続けた。
我こそはと名乗りを挙げた者がいなかったわけでは無かった。
むしろ一族の皆は度々現れる勇者に対して快く歓待をして迎えていたものだ。
しかし棺のもたらす圧倒的絶望と無力感は人一人の意識や決意を圧し潰すのに十分すぎるモノだった。
訪れたときは輝いて見えた勇者たちの瞳が汚泥のごとき闇色に染まるのは時間の問題であったのだ。
あれほど希求していた救いをもたらすはずだった存在は悪しざまに一族を罵り悪意を振りまいて出ていくという事が続いた。
…何度目かわからない罵倒を聞き終えた一族の長はある日ついに棺のもたらす可能性を封印することに決めたのだ。
希望を持つことが罪である、という自分達を納得させるだけの為の結論は一族の心の平穏を保つ最後の選択だったのだ。
そして儀式場ともども棺を封印する日が訪れた。
誰もが満たされることの無い永劫の時を覚悟して封印術を解き放とうとした時、棺の中から仄かな光が漏れ出しているのに気が付いた者がいた。
そう気づけば儀式場の内部には優しい光がいつの間にか満ち、その場に居合わせた一族の皆の胸に暖かな記憶が蘇っていた。
それは失った筈の「希望に満ちた日常の記憶」。
誰もが戸惑い動揺を隠せずにいた。
いつの間にか溢れだした記憶は失くしたはずの感情を呼び覚まし皆流れる涙を抑えきれずにいた。
一族の長もその場に突如具現化した魂の救済の場にただ立ち尽くして、普段は信じてなどいない神に祈りを捧げようとして、その瞬間涙に歪んだ視界に見覚えのない人影を見た。
”ねぇ、どうしたの?どこか痛いところがあるの?”
いつの間にか鮮烈な輝きとなっていた棺からの光が逆光でその人影が何者かはわからない。
しかしこの呼びかけが最後の救いの機会であることを一族の長は直感し人影のほうへ手を伸ばす。
彼女は伸ばされた手を取ると長へ優しく微笑みかける。
新たな守るべき神話が始まった日の出来事であった。
「冥帝陛下…貴女の一存でこの件は穏便に済むのです。その点をご理解いただけると幸いですわ。」
「人情を介さない魔獣の方がまだマシな意思疎通を行うものです。自分の存在をもう一度顧みることをお勧めしますよミストレス。」
真名とセシリアの敵意の交換は極刑の執行が確定した者に向けられるような無慈悲さを含んだ空気をこの謁見の間に充満させている。
セシリアに使える近衛兵団の誰もが処刑器具に囚われる自分を幻視してしまう程の殺気に晒されているのだ。
しかし常人なら刹那の瞬間で窒息して転げまわるだろう重圧を一身に受けている目の前の異常者に対してセシリアは正直唖然とするしかなかった。
”あらゆる者に静寂という名の運命を与える”、クワイエット・ミストレス”斎木真名”か。
他の”領主”達もだいぶ手を焼いていると聞いていたがいざ目の前にするとその二つ名の意味を察するところがあるな。
セシリアは真名に対しての危機感を非常事態レベルに引き上げて改めて戦略を練る。
いくら一個師団レベルを相手にできる異能者と言えど生身の人間であるのは事実だろう。
私の管理する禁書「ファラリスの日記」は”対象の処刑される因果を確定させる”という権能を持つ。
いかに因果律を操る能力者でも逃れられない”神の決定”を具現化するものだ。
セシリアは我が身の必勝の要因を再度復唱して真名に向き直る。
そして真名の相貌に悲しげな色が映っていることに気づいた。
「陛下…おじい様からの返礼をこの場で確かにいただきますね?」
セシリアはその言葉の意味を認知すると同時に自分の因果が何をもたらすかに気づき、自分の運命がどのようなモノかを見せつけられることとなった。

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