ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー不義理な享受と不自然な許諾ー
- 5 日前
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”正解は唯一無二と連結するモノでは無いよ”。
自嘲気味に呟いた彼女の言葉はこの場の空気を染め直す力があるように感じる。
そう、これまでの救いの言葉の意味が消失してしまったような意味合いの言葉がこの教会の中に響いたのだ。
決定された筈の伝達事項はすでに存在意義を消失していて、メッセンジャーである私の存在価値も等しくなくなっている。
それでも”導き手”としての彼女の言葉から力が消えてしまったわけでは無い。
これからも彼女の言葉が示すモノだけが我々の望む未来を描いてくれる筈。
…そうこれからも私たちの物語は続いていくのだ。
得体の知れない不安が沸き上がる中で私は必死で悪い予感を抑え込むことに終始している。
それが何よりの不信の証だとわかっていながらだ。
しかしこの日常が唯一無二の幸せのカタチの筈。
しかしこの彼女の示してくれる道こそ私たちの救いの道の筈。
しかしこれまでの心の闇を払ってくれたのも彼女と彼女の言葉であった筈。
しかし、しかし、しかし…
際限なく続く自己弁護の言葉は私の意識と情報処理能力を簡単に塗りつぶしていく。
まるで呼吸のやり方を忘れてしまったような窒息感が私を襲ってきた。
その無限の苦しみの中、無意識の中で疑念と不信感にまみれてしまった彼女の救いの言葉。
それを何度も繰り返して安息の要因を探していく私の様子を観察していた周りの皆の様子が変わっていることに今更ながら気が付いた。
あまりの私の取り乱しように怯えた目を向ける者。
普段の私の頼もしい姿からの変容を目の当たりにして動揺を隠せずにいる者。
ただならぬ恐怖を感じ取り目を背ける者。
既にこの場は救いを授けるいつもの礼拝の厳かさが剝奪されていた。
それらの反応により私の観測する現実が悲壮に染まっていく。
そしてついに私の心に芽生えた彼女への背信的疑念…
”まさか私を供物としてあの儀式術を?”
その瞬間、まるで頭の中を監視されていたかのようなタイミングで彼女の瞳孔には私の姿が映っていた。
それを感じた瞬間私の口から無様な言い訳が飛び出そうとする。
その滑稽さを咎めるように彼女は私に視線を突き刺し同意を求めた。
「もうすっかり満足したでしょう?」
言葉にはならなかったその問いかけに対して返答する為の意識がまとまらない。
その様子を確認した彼女は改めて可憐な笑顔を私に向けている。
そしてその意味を考えた数瞬後、私の自律思考の存在意義はなくなっていった。
「ご機嫌いかがかしら嵐帝陛下。もう話の内容は説明不要だと思いますが御心は決まってらっしゃいますね?」
「その詐術のような会話を成り立たせるためにこの場に顔を見せたわけでは無いのでしょう?ミストレス。用件だけ伝えたら速やかにお引き取りいただけるだろうか…貴女のような不穏分子と意思疎通する気は無いのでね。」
真名とフェリスのマウントバトルはこの謁見室の室温を危険な程に引き下げている。
まさに生物の意思と判断能力を簡単に奪い去る極低温の殺気はこの場に揃ったフェリスの側近や近衛兵団達の生命維持を明らかに阻害するレベルで充満しつつあった。
それでもフェリスを守護する使命を健気に守ろうとする精鋭達の目からは意志の光は失われていない。
彼女のもたらしてくれる秩序は自らの命より大事にすべきモノという点で彼らの忠義の念は揺らがないものであるからだ。
フェリスは健気な部下たちの無言の信頼を感じ取り頼もしさと共に危うさをも感じていた。
私が今対峙しているこの人間は気分ひとつであらゆる意味での静寂を顕現させうる超越者であり異世界の権力者のひとりでもある。
この場で奇跡的に彼女を無力化できたとしても破滅の因果が確立されるのは避けられない運命だろう。
そうなれば私の守るべき者達の平穏にも関わる事であり看過はできまい。
フェリスの脳裏に最悪の予感が迸るが、それを意志力で抑え込む。
自らの恐怖や不信感こそ敵の望む事象を具現化させる一番の要因であるからだ。
…しかし私の管轄する禁書、「デュランダルの盟約」の権能により彼女の能力や武装についての対策は予め用意してある。後はそれを効果的に撃ち込むだけだ。
フェリスは必勝の因果をもう一度脳裏に描き禁書の権能を開放すべく魔力を込めて、ほんのわずかな違和感に気付く。
何故彼女はわざわざ単身で乗り込み、意思疎通を試みた?
いつもは流しているだけの些細な疑念。
その刹那の逡巡はフェリスの運命の歯車を狂わせるのに十分な時間として機能することとなった。

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