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ストーリー
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー善意が行う掌握、悪意の求める開放ー
…よくぞここまで来たものだな我が愛し子たちよ。 突如脳裏に響いた言葉が身に覚えのない懐かしさを感じさせ、抗いようのない動揺がその場を支配した。 その場の誰もがあり得ない景色を目の当たりにする。 「現実」が全ての幻想を護ってくれていた安息の日々。「ルール」が全ての意思と尊厳を保障してくれた安寧の日常。「現実感」が全ての理想に実像を与えてくれた庇護された毎日。 今までの理不尽と不条理の上から強引に塗りつぶされた「幼き日の優しい”思い出”」が暴力的な圧力で自我を溶かしていく。 突如目の前に現出した「完全な世界」に対して制圧部隊の意識は熱湯にくべた氷塊のごとく存在感を失っていく。 誰もがここに存在するはずもない自らの庇護者の幻影に囚われて膝を折り、武器を投げ出している。 どこからともなく嗚咽が聞こえ始め、皆の感情の堰が決壊した。 与えられたものに似つかわしくない狂騒と狂乱は自らの存在意義を見失わせて地獄の窯の底さながらの光景が渦を巻く。 そしてその様をじっくりと鑑賞した彼女は手を大きく広げて受容の意思をこの場の皆に示す。 …事実という名の悪魔が制圧部隊の
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー良識の招く破滅的観測ー
私にとって箱庭の中の平穏など何の意味も成さない…改めて論じる意義があるかしら? それだけを言い残すと彼女は身を翻してこの場を立ち去ろうとする。 その様子がスローモーションで私の脳裏に映っていた。 このままその姿を見送れば引き継ぎも真っ当に終わっていない今の事案が壊滅的未来を招くのは明らかだ。 だがどうすることができるのか?彼女をこの場に立ち止まらせる理由がまだ何か存在しているのか? ようやく幼児性を保つ事が可能になった検体達を理想の未来へと導く術を私達は持っていない。 そう、これからやっと理想の具現化について語り合おうと胸を弾ませてきた私に突き付けられた突然の別離勧告。その意味するところは折角の理想の器を砂の楼閣に戻すことに他ならない。 そして”ミストレス”を失った私達はあの組織にとっても協力関係という対等な立場でいられなくなることは必然…親を失った幼子達だけで外の「大人」と交渉などできる筈もない。 その後モラトリアムから投げ出された彼らは良くて実験動物、もしくは世界の異物として排除されるのを待つばかりとなるだろう。 まさか刹那ほどの時間でわかる
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー神秘による開拓、論理による開闢ー
これからも予測と予知を一緒と考えるのはあまりにも危険ではないのですか? トーンを抑えて放たれた筈のその一言は暴力的な程にこの場に浸透した。 そう、今まで暗黙の不文律とされてきた楽観的観測の存在理由をあからさまに否定されて誰もが二の句を告げないでいる。 放置されすぎたことによる指揮系統のおざなりな現状、前線における士気の温度格差、経験則に頼りすぎたことによる歪な戦術理論。それら全ては理想と現実の乖離を現在進行形で広げていた。 それでも日々の日常は問題を表面化させずに回っていた…誰もが歪んでいく理想像を直視せずにいつもの「現実」を受け入れていたのだ。 その”平穏な日常”を崩そうとする姫君に対し、いつもは友好的な領主達も疑問や反感の意を示している。 それは当然の反応であろう。 誰もが叶う筈が無いだろう願いや理想像と折り合いをつけて生きているのだ。 その点について改めて問いただそうというのは現状の皆の貢献を無意味と断じる事と同義。 それがどれほどの背任行為になるかわからない者はこの場にいない。 …しかし姫君の「問題提起」に口を挟むものがいないのも事実であ
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー未然の危機と既知の宿命ー
羊水に漂うその胎児は奇跡の鼓動を刻んでいた。 まるで世界の律動は自分が調整していると主張しているかのごとくだ。 母体から供給されているのは自分を生成するための栄養だけではない…あらゆる宿命を決定づける因子も滞りなく注がれ続けている。 しかし”彼”はそのことをなんとも喜ばしい気持ちで享受していた。 そう、これから自分が支配下に置く環境そのものを創り出すその因果を無償で受け取れることに心からの感謝を感じてさえいる。 そして母体が受け入れた痛みや苦しみさえも我が身を生み出すための儀式として許容してくれたのだと思うと何の対価を差し出さない自分が申し訳なくなるほどだ。 この完璧で十全なモラトリアムから生み出された後に何を思い、何を成すべきかを考え始めるとあまりの万能感で自分の存在がどのようなものなのかわからなくなってしまうな? そこまでを思い浮かべた後、”彼”は生命の海に浮かぶ我が身を身震いさせて生命の胎動を加速させる。 …それはまるで我が身の全能感を初めて行使する創造神さながらの行いに似ていた。 「それが”セラフィム・ビート”…我々イレイザーが持つ固有波
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー主権を持つ者の孤独と”現実感”ー
此度の御身のご生誕真に喜ばしく存じます主様。 …過剰なほど臣下の礼を強調した男はどれほど自分の祝意が大きなものであるかを余程主張したいようで痛々しい。 それでも傍に侍る彼の側近達は確信を実感していた。 これで我らの教義だけが「現実」として世を統べることができる、そして我らの示す「希望」だけがこの世の絶望を照らす光となるのだと。 正に創造神の寵愛を受けられることが確定したかのような歓喜は彼らの胸中を余すことなく満たしていく。 自尊心のオーバーフローはこれから描かれるに違いない金色の未来像を彼らに幻視させるに充分な熱量を与えている。 側近たちの今にも暴走しそうな熱気を受けて男は粛々と己が主人との契約の儀を進めていく。 それは意思決定権の「譲渡」に始まりこれからの展望を描く主導権の無条件承認を経て教義の独自編纂を一任するに至る。 そして一連の儀式が受諾されて男は恭しく白金の蓮の花と王冠があしらわれた徽章を差し出した。 その時の男の表情は恍惚をも通り越した喜びと達成感に満たされていた…自らをも導いてくれるだろう眼前の存在に今までの自分の蓄積を捧げられる喜
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー不条理が呼ぶ確信的予測ー
いかなる時も我らが主の観測と祈りの重ね合わせだけが新たな希望の礎となる。 不気味な響きの断定の言葉…この場の皆の自我意識が縛られた。 どこからともなく肯定を促す拍手が聞こえ、それは次第に快哉を叫ぶ地鳴りのごとき歓声を呼んだ。 熱狂の渦は留まる事無く議場の隅々まで広がりついに恍惚の涙を流す者もいる。 誰もが登壇者の授ける感動を享受して心に誓った。 これからの希望は我がリーダーの示す展望と行動を承認する事だけなのだ…その理念を具現化させることだけが自らの役目なのだと。 …この胸に宿る歓喜と確信こそ全ての闇を払う力なのだと。 そして誰もがその相貌に映していない。 登壇者とその傍に侍る者たちが優越感を通り越した冷えた目で確信的睥睨をしていることには。 「それが”リビルド・メモライズ”に関しての調査報告というわけで…むしろよくレポートをまとめられるだけの正気を保てたものね。天原はこの件どう思う?」 「「現実」の拡張構築を専門とするリアライザーの二つ名は飾りですか?そもそも貴女が振った話題ですよ…蒔苗さん」 瞳は正解の答え合わせから始めようとする蒔苗に対して
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー未然の希望と蓋然的観測ー
それでも図面に書かれた以上の物に仕上げるのがあなたたちの役目でしょう? …凍り付いたこの場の空気がひび割れる音が響いたように感じた。 人の尊厳を踏みにじる音はおそらくこのような感じなのだろう…しかし誰も不満の意を示すことは無い。 そして彼女のカリスマを象徴するかの如く黒真珠に似た石が彼女の耳で不穏な輝きを放つ。 それだけでこの場の意思は彼女の思うがままだ。 誰もが彼女の思うがままの理想を具現化するために自我と尊厳を投げ出していく。 ひとり、またひとりと自らの緋色の眼を輝かせて魅入られたように熱狂的視線が彼女に捧げられる。 その隣で満足げに佇む魔道士が一人…目の前の狂気の宴に目を細める姿は悪魔との契約を果たした者の愉悦を体現しているかのようだ。 あとは現世の結界運用ノウハウで崩れかけた中枢部を補完すれば望みは叶う。 そして彼は思うのだろう。 自分の失ったもの、奪われたものの対価の重さを人々が思い知る絶望の時。 この人工神域が唯一無二の現実として完成する時。 …その時こそ自分が「救世主」として求められる運命が成就する時なのだと。 「それでアリステイル
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー恣意的要求による断罪の果てにー
全てにおいて例外の無い救済?その表現自体が矛盾そのものだろう。 …もはや疑問でも問いかけでもない言葉が議事録に刻まれた。 最終的な意思決定が行われている筈のこの場の空気は一層ざわめき、冷え切った皆の心は確定的な破滅の予感を共有している。 そして通常一番最初に忌避されるべき議場への疑念と猜疑心はこれからの因果を染め上げる準備を終えていた。あとは誰が理性の堰を崩すかだけの問題だ。 しかしこの期に及んで尚誰もがかつてのカリスマである彼の「賢い選択」による”スマートな解決”を待ちわびている。そう、皆の希望を一度焼き焦がした観念的理想論による救いに頼るほかないという結論は未だに「現実的」という名の幻想を信じている者たちの理念が投影されたものだ。 それでも絵に描いた餅そのものであるその”再建策”からこれからの希望を見出せなければ今の日常そのものすら維持できまい。 ”散々苦い思いをしてきた自分たちの労力は報われなければならない”…それこそが呪縛の根源であることを直視できる強さ。いかなる異能によってももたらすことのできない見識。 それこそが人知を超えた強さである
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー渇望と失望がもたらす致命的事案対処への回答とは?ー
願いや祈りはいつでも高潔であるべきではないのか? 「結論」として突き付けられたその言葉の意図はこの場の聴衆の総意だったのかもしれない。 そして器の選定の時点で不安視されていたこの事態。 未来への希望を殊更に強調されて描かれた「理想論」は今や当初の目的の達成を困難にしている。 いやその存在自体が「聖典」の存在を過剰に神格化してしまっており、その現実的運用の非現実さをあからさまにしているのだ…あまりの本末転倒ぶりは滑稽を通り越した失望と絶望だけを議場にもたらしている。 それに加えて現在その構築ヴィジョンを運用できるのは神域に手が届くほどの一握りの超越者のみだとのこと。 あまりにも明らかな理想と実態の乖離は実務者の心を折って久しいが代わりのプランなど在ろうわけもない…誰もが「聖典」のもたらす救済を今でも心の支えとしてきている。 自己否定による事態の把握がもてはやされる時期はとっくに終わっている。 そしてこの期に及んで生産性の無い「お気持ち表明」合戦をしている場合ではないのは誰もが実感している事だ。 しかし誰も”解決策”をプレゼンしようという気配はまるで
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー必然と自然の無理解な主張ー
そこには誇張された事実も拡大解釈された現実もなくただ涼やかな日常があった。 その日々に込められた熱量は関わる者たちの理想像を無尽蔵に具現化させていき、数多の英雄や伝説の始まりを歴史に刻んでいくものとして運用されるに至る。 その様々な「成功例」は次第に唯一無二の神話へと認識を変えて因果の始まりを統制していった。 誰もがその”神域”への道のりを駆け上って自らの願望や夢想を現実のものとしていったのだ。 そしていつしか”神域”への道のりは有志の者たちによって管理され門番は「成功者」達が選別した「有資格者」が務めるようになっていく。 やがて皆に平等に開かれたはずの理想郷への道は「成功者」への偶像崇拝者たちによって閉ざされる。 そして神々となった神話の紡ぎ手はそれを認可し自分たちを崇める者による国家を創って”神域”を現世から隔離することにした…「正義の定義」を自らの裁量で決めてしまったのである。 正に「救済の道」を絶たれた人々にとっては傲慢不遜そのものの行為にしか思えなかったのだろう。 誰もが尋常ならざる熱量を持って神々に立ち向かおうとした。...
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー演者と舞台装置の誠実な対応とは何か?ー
…そのささやきはまるで森の小鳥ね? 彼女はそう言って言葉を切ると私から視線を外して微笑んだように見えた。 その華奢な姿に思わず手を伸ばそうとしたとき、視界が揺らいでいった。 まだ何も伝えていない。 伝えようとする言葉すらまとまってはいない。 しかしここで眠りに落ちてしまえば二度と君の隣にいることはできないだろう。 妙な確信が私の意識を焦がしていく。 そう彼女は私が眠りについたあとで人である日々を捨てて久遠の時をひとりで生きる道を選ぶのだ。 だが彼女ひとりの命ではその願いは叶えられまい。 だからこそ私はこの場まで彼女のエスコート役を買って出たのだから。 そしてここまでの同行を許容してもらった事で油断していた事は否めない…そもそもこの場に充満した違和感は私の覚悟を試すためのものではなかったのだ。 その事実が直視したくなかったこの場での「結論」を突き付けてくる。 不意にざわざわと周囲の木々が不快な密度の魔力を持ってこの場の空気を染め上げた… 彼女の抱く未熟な理想がこの場の「現実」として具現化した瞬間であった。 「それでこのロミオは神様になったジュリエッ
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー理解力の欠如と想像力の欠落についてー
私は見たもの…あの景色と確かに共にあったあの人の姿を。 彼女は自らのかつての美貌を思い出したかのように胸を張り、朗々とした声で訴えかける。 その在り方は当時の威厳と求心力を欠いた風前の灯のごとき哀れな偶像であったがこの場に集った古参の者たちにはどうでもいい事だっただろう。 「現実」には到底存在できない夢想と理想論、実際には立脚が不可能だった構築ヴィジョン、事実上運用が不可能になった未来への道筋。 誰もが光り輝ける舞台と成りえるはずであった一帯の固有世界は殺伐としたレッドオーシャンの縮図と化して久しく、冷笑と失笑だけが浴びせられている。 しかし彼女は確定した筈の終末予測を否定するかの如く前線で旗を掲げた。 そう、「事実」を認めていないわけでもあり得ない奇跡を期待したわけでも無い。 まだこの場を切るカードを秘めているのも私の「現実」…自らの存在意義を捧げてこそ発動が可能な禁忌の手段。 私の意識そのものを「世界の摂理」と化し私そのものを名実ともに神と成す稼働領域は無傷のままだ。 そしてその始動キーとなるのが私の霊的構造体と生命マテリアルの結晶であるこの
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー清き願望が求める連帯責任ー
冴えない見通しとパートナーの不機嫌…それは世の中の「不測の事態」を招き寄せる必須要素に違いないね。 彼はそう言って長々と演説した後に空を仰いだ。 胸に詰まりっぱなしだった様々な所感を吐き出したその顔には達成感すら浮かんでいる。 そしておもむろに胸ポケットのタバコに手を伸ばそうとしてこちらの怪訝な視線に気づく。 このご時世「ちょっと一服いいかな?」が通るわけは無い。それをたった今思い出したようなその素振りは私の不機嫌を買うのに十分すぎるものだ。 さらにおずおずとこちらの機嫌を窺うその申し訳なさそうな顔には「ちょっとぐらい許せよ」と書いてあって余計苛立たしさが募ってくる。 しかしこの場でヒステリックに言葉を荒げてもこの案件がスムーズに運ぶわけでは無い。 そうまずはお互いのスタンスと役割のすり合わせからやり直さなければならないのだろう。 私はさっきまで突き刺していた剣呑な視線を和らげるともう一度今回の戦術骨子を噛んで含めるように伝え直すことにする。 彼は私の機嫌が少しでも改善したと感じ取ったようであからさまに胸をなでおろしていた… その緩み切った頬に平
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー自立と自律のただならぬ関係ー
鏡の国の眠り姫。彼女のことを確かにそう呼んでいたね? ただの事実確認に過ぎないその言葉は明らかに破滅の要因をこの場に生み出していた。 彼女の耳で異質に輝く黒真珠のようなものがあしらわれたピアスが揺れるたびにこの場の不穏な空気が妙な粘度を持って私の意識を侵食してくる…緩やかに表れたまどろみが意識の主権を差し出すように主張している。 そして不快なほどに存在感を放っていた彼女の相貌に優しい光が灯ったように見えたその時、私の自我は私自身の意識のコントロールを離れていった。 ”もういかなる苦しみも痛みも抱える必要は無いんだよ?” そう、かつてずっと望んでいた筈の言葉がしっかりと刻まれた私の魂。その構造体は楽園という名の「理想郷」へ旅立つことになった。 「またしても”ルナティック・センシズ”とは…至急Type-C対応で進めるように。それから」 朱鷺子の意識を焦燥感があぶり続ける。度重なる超越者への対処で最近は現実も日常もズタボロだ。 これで心身のバランスが崩れて戦線離脱ということになったら避暑地療養を経費で落としてやる。 今自分の持てる権利の私物化を真剣に検
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー理不尽蓄積が起こす不条理進行についてー
かつて意識に焼き付けられたあの日の月明かり。 あの日感じた想いと景色の中には誰もが自己実現を叶えられるかのような神秘性が確かに実在していた。 それは水面の月影や砂の楼閣にも十分すぎるほどの「現実性」を与えられた奇跡の一幕だったに違いない。 そこから共有された構築理論や具体的実行論議はいたるところに成功像を具現化して繁栄の原型を築いていった…自らの足元が見えなくなるほどの空を皆が駆け抜けていく「”自由”の顕現」を誰もが受諾できた。 そう、創生神話の1ページ目の内容が暗黙の不文律として「平等」に分け与えられた夜のことだった。 「それでその時発現を促された異能をまとめて”ルナティック・センシズ”と呼称することにする、か。でも結局は「ピジョン・ブラッド」案件じゃなかったの?鯨井教授が熱を上げていた「意識領域構築からの意図的異能発現」とかいうやつでしょ?」 千里は上がってきたレポートという名の情報の羅列に目を通してため息をついた。 あの件は開発側からも「実用に耐えない」という所感が出るほどの理想論として片づけられた筈。 いくら上層部の覚えがいい鯨井教授だと
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー自我と自意識による楽園案内ー
かつては確かに日々の日常を刻んでいたはずの時計の針。 その動きを止めた今では初めからその姿で掘り出されたオブジェのように聖堂の中心に佇んでいる。 しかし誰もが踏み込むことを許されなくなった空洞のごときその空間に満たされているのはかつて共有された苦悩と栄華だけではない。 むしろこの場の意義と機能が失われた後に蓄積されたものがこの地に眠る意思と記憶をこれ以上なく雄弁に物語っている。 それらの守護者として自らを主張している彼らの使命…そう、今では共に分かち合うことが不可能となってしまったかつての理想と夢想を遥か未来へ送り届けること。 いつか聖典に記された楽園の具現化を現実にできる者へ願いを託すために。 「…これは明らかに”無欠世界の具現化”への対処任務ね。久々に不可能案件を振られたというわけか。」 「そうだな。藤宮直系の”セレスト・フォール”がわざわざ現場に出張るらしいからな。」 千里と光はシンクロした溜息をつくことで目の前の事実を許容しようと試みる。 だがそれも無駄な努力であることに変わりない…失敗の可能性を考慮しない行動プランを建てるのは勇敢とは違
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー恣意的意図と示すべき敬意ー
だからこのポイントは履修しておけと言ったでしょう? …今更ながら脳裏に彼女の不遜な笑顔が再生されてテンションはガタ落ちだ。 目の前の事態を受容できない私の思考は脳内が焼き切れんばかりの自問自答ループを繰り返している。 まとまらない今までの回想だけが意識を焦がしていた。 一体何が足りなかったというのか? 精一杯の無茶を通してようやく組みあがった儀式場は自重にすら耐え切れずに構造体を瓦解させてきている。 完璧だったはずのプランニング。それを思い出しながら自らの「理想像」を探してみようとして愕然となった。 あれだけ昼夜問わず思い描いていた完成像がいまやどこにも見当たらない。 度重なる現実の重さで歪んでしまったのか、具現化できる強度が無く霧散してしまったのか…今となってはわからない…回答してくれる者も存在してくれない。ただ目の前の惨状だけが存在を主張し続けるばかりだ。 そして華やかな未来の礎となる予定だったこの舞台は冥府の扉のごとき不穏な空気を吐き出し続けている。 扉の奥からは聞こえるはずのない呼び声が響きだす。もうこの場の結末は確定してしまったのだろう
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー自明の解析、繋がるシグナルー
結局自律する人形に過ぎないじゃないか。僕も君も…それだけは確かなことだろう? 意図せず溢れだした”自我”の主張。それが何を伝えようとして放たれた言葉だったのかは未だにわからないままだ。 しかし「対等な関係」を望んだ彼が紡いだその言葉に込められた想いを受け止めなくてはこの場に来た意味自体が霧散してしまうのは自明である。 それでも無理だ…なけなしの自尊心と自己肯定を投げ捨ててまで歩み寄るなど到底できるわけも無い。 目の前の奈落に等しい溝が求めていたはずの「共存」を拒んでいる。 彼の理想に理解を示し続けることが好意を示す唯一の手段であった?本当に? 今はその”賢い選択”にすがることすら難しい有様。でもこの場で万策尽きたと示すことは己の存在意義を投げ捨てるに等しいこと。例えこの身が一個の歯車であってもそれは変わらない。 脳裏に消えては浮かび上がる箇条書きの感情を整理できないまま私はもう一度コミュニケーションのために言葉を投げかける… 自分の必要性を訴えかけるためでなく、自らの機能が創り出せる「可能性」を示すために。 「それで「君の話には”非現実”が足りな
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー旅立つ歌と白銀の楔ー
そう、それが君の求めていた「現実」ってやつだ。満足したかい? 今でもその言葉が何度も脳裏に共鳴していた。 あの日見ていた虹色の希望は玉虫色の無力な正義だった…私はそのことがどうしても納得できずに彼のもとへ論戦を挑みに行った。そしてその時のことは忘れることのできない絶望と挫折を私の心に刻んだのだ。 その傷跡がかつて共有できなかった理想の証となったのは必然だったのだろう。 栄光への道しるべは誰の前にも現れるわけでは無いのだから。 「だいたいこの事案はしっかりと決着してあったはずでしょう?何故今このタイミングで問い合わせが来たわけ?」 「それが…誓盟皇志会からのコネクションだということで」 目の焦点が合わない彼女の秘書はしどろもどろになりながら説明を続ける。 その惨状を静観しつつも千里はため息をついて状況を確認していく。 …よりによってその方面からの要請とは完全に油断していた。 改めて湧き上がる苦々しい感情を噛み潰して目の前の”嘆願書”を睨みつけると頭痛がより増してくる。 誓盟皇志会…表向きとしては「外に出せない機密の管理保護を
ギャラクシー”ジェネシス・コード””-異端の発生、常態の審問-
もし魔女がやってきたらやっつけてね?その力で。 彼女は朝焼けの光に溶け込みそうな儚い笑顔でそう告げるとそこで言葉を切った。 それが自分の原初の記憶…理想的な日々を待ち続けることを始めた全ての因果がそこにあった。 それからは何が足りないのかを考えては思考を積み上げ、自分なりの砂の楼閣をいくつも造っては壊してという周りから見れば徒労にしか映らない作業に没頭し続けた。 ”まるで壊れた人形のよう”と直接揶揄されたこともしばしばあり精神的に追い詰められたことも珍しくなかった…おそらく彼女の被造物である自分にとっては正しい認識なのかと悩むこともあった。 しかし水が引かれてオアシスが生まれ、人が住まうようになり人々が日々を営むようになると私の役割にも意味があったのだと感じ嬉しさを甘受することもできた。 そして社会が成熟して経済が発展しルールや情報がこの世界を構築するようになると途端に私は作業を許されなくなっていった…情報は遮断され聖殿の奥深くで過ごすことを求められ続けた。 私の役目はいつの間にか象徴であり続けることだけになっていた。 そんな日々が数え切れぬほど
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