top of page

ストーリー
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー消えゆく追憶と日常からの解放ー
狂おしいほど追い求め続けた理想の日常像。 それはあまりにもありふれた姿で目の前に現れた。 …しかしそれは当然のことであり因果の必然だろう。 彼女は脳裏に掠めた不安や猜疑心を意図的に排除してその輪の中へ踏み出した。 そしてできるだけ朗らかに話題を提供しようと考えて違和感に気づく。 私の為の居場所となる空間が無い。 皆はあまりにも楽しそうに会話に没頭していて対処してくれる様子はない。 あまりの不自然すぎる「自然体」に困惑は私の脳裏を埋め尽くしていく。 積み上げてきたはずの陽気さや人付き合いの良さや会話術はこの大事な時に役立ってくれそうにない。 さらにまたひとり目の前で輪の中に当然のように入っていく。 コミュニティの人間たちは嬉しそうに彼に話題を振り、おどけた彼に快哉を叫ぶ。 いったいどういうことだ? 彼女は今まで乗り越えてきた艱難辛苦を思い出して今この時の苦痛を和らげようと試みる。 当然のように虐げられ市民権を認められるまで貢献度を献上し続けた日々。 空想の中の観念的理想像を心の支えに耐え続けた日常の数々。 自分の理想像そのものの「現実」があると知
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー誓いによる英断、意志による決断ー
あの日の月の光は私の心をいつでも照らしてくれた。 得体の知れない宵闇の中で希望という名の救いを届けてくれた物語。 運命的な出会いによって未来の扉が開かれるストーリーは少々ベタな展開であったが、そんな部分も親しみを感じさせてくれて子供心に嬉しさを感じていたものだ。 今では日々の日常に追われる中で思い出すことは減ったがそれでも大事な思い出のひとつである。 今日も幼い娘達を寝かしつけた後にその大事な神話の1ページを脳裏に浮かべて描かれた冒険の日々を反芻していく。 非現実な世界の中で描かれた非日常が躍るなかで登場人物たちの喜び、決意、決断の物語が進んでいく。 そしてヒロインが主人公に親愛を示す笑顔を向けて夢物語は幕を閉じる。 私としては納得のいく完結こそしなかったもののひとときの夢想譚は充分すぎるほどの快感をもたらしてくれる。 気が付くと時計の針は頂点で一分の隙もなく重なっており夜の帳がもたらす静けさは時間の経過をしっかりと感じさせていた。 今日もいささか回想にふけりすぎたか。 自分を少し戒めて自分の寝室に向かおうとしたとき違和感が首筋にぬるりと巻き付い
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー戦略のための決意、戦術のための決断ー
これからどのような正義を選ぶかはあなた次第よ。 なんとも無責任とも取れる言葉で説明を締めた彼女はにこやかに微笑んだ。 その涼やかな笑顔に私の心はざわめいた。 無理もない…今まで理想と偶像全てを具現化してくれていた彼女の庇護は期待できないモノになってしまった。 敷かれた安全なレールの行先はこれから自分たちで決めなくてはならないのだ。 完全無欠な正しさは霧散して掴みどころのない理想は私の心を霧中に迷わせる。 信じてさえいれば良かった偶像の「現実性」はたった今消え失せていた。 これからは私自身が皆の道しるべとなりあらゆる困難に対処しなければなるまい。 しかし私に皆が求める理想像を描くことが可能なのか? 皆がその命を賭ける価値のある現実感を掲げることがはたしてできるのだろうか? 今この場でさえ意識が消失しそうな重圧が私の思考領域を白く塗りつぶそうとしている。 いっそ彼女の意識下に溶け込んでしまえばいいのではないか。 私だけでこれからの日常の実用性を受け止めるなど不可能だろう。 簡単にひしゃげた私の責任感は自身の目の色を失わせて焦点は既に合っていない。..
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー認知の監獄と認識の虜囚ー
あなたがわたしにとって大事な存在であることにかわりはないのですよ。 …明らかに生気のない彼女の目に宿った狂気の光に私は射すくめられた。 静かに私の頬に添えられた冷たい両の手から伝わるはずのぬくもりは一切感じられない。 それどころか心の底まで染み渡るような冷たさは私の恐怖心を際限なく大きくして体の自由を奪ってさえいる。 もはや言葉で意思疎通できる状態では無かった。 私の脳裏には今の状況の解決に必要な要素は浮かんでこない。 ただひたすら彼女との平穏な日々の記憶が駆け巡る走馬灯の在りようは現世への未練を諦めろとの本能からのメッセージに感じている。 もはやこのまま彼女と共に涅槃へ旅立つことが唯一の救いであるのかもしれない。 明らかに思考にノイズが走り、判断力や思考能力は失われかけている。 彼女は私の様子を見て見るからに不気味な笑顔を見せた。 そして正に地獄の門が開こうとしたその時、いつしか不思議な陽光が差していることに私は気づいた。 奇跡のごとく動いた私の右手が温かいその光を受け止める。 これまでの日常の記憶が真っ白な光の中へ溶けていく。 その瞬間、私の
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー真理の役目と事実の価値についてー
様々な想いのさざなみが私の心を揺らしていた。 受け継いだ魂と紛いモノの身体…それだけが私を構成する唯一無二のモノである。 しかし私の血に染まった様々な物達は自らを私の一部としての未来を描く事を求める。 あらゆる孤独、悲嘆、激情が私の中に渦巻いて私の自我を侵食していった。 許容できない程の感情の濁流が私の持つ価値観や情緒を洗い流していく。 それは自己主張などという生温いものではない人間性の略奪と同義であった。 そして私の意識と判断力を我が物とした感情の暴風雨はまた新たな力と権限を求めて彷徨うことを選択する。 隷属された私の力は新たな主に運命を決定づける権限を譲り渡した… その支配者としての能力により全ての因果を再定義する儀式が執り行われることが確定した日のことだった。 「その報告のあった日時から霊的災害の規模が広域化しているのは確認しているわ。それで公主さまの自我がないことは確定でいいわけね?」 美智流は事実だけを確認するべく傍らの副官に問いかける。 稀代の超越者のひとりでありこれからの古典呪術界の盟主とも認識されている次代の”月光妃”、「朱月公主
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー作為的偶然と偶発的必然ー
かつての貴方には刻まれた傷に抗おうという気概が確かにありました…残念です。 聖殿に静かに響いたその言葉が私の現実感を消し去った。 そしてこの場に集った皆の心も騒ぎだす。 …まさかあの方にあの処分が下されるとは。 我々のこれからはいったいどうなるのか? 儀式の取り決めは一体どうなってしまうのだろう。 静まり返った聖殿の空気は動揺と猜疑心に染まり重苦しくなっていた。 それも無理は無い…この「朱禁の聖域」の枠組みから追放されることが何を意味するかは周知の事実だ。 そしてそれは人権剥奪ということだけに収まらない。 自らの能力や異能が”平和を害するモノ”と定義されること。 存在そのものが”穢れ”として扱われることである。 そうなれば人間としての意思や主張が認められなくなるだけではない。 自らが関わったネットワークや携わったもの、自分が作り上げた術式や呪法も禁忌とされ言葉通りの意味での「抹消処分」となる。 私という存在が世界に存在した証はすべて塵となり廃棄される。 いっそ魔物として生きていくことを考えようかとして、その思いを打ち消した。 私に手をかけねばなら
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー未読の要望と既読の希望ー
この場で「現実」を否定することがどういう事か、わかっているわね? …それは原初の記憶。 そして今も魂に刻まれた楔のひとつだ。 人は誰もが庇護者の願いや想いを注がれて育つもの。 その儀式めいた自我の獲得経緯は光の下に生きていれば当然得られる暖かな時間の中にあるのだろう。 しかし私の中に在るのはこの世界の厳然たる摂理と「現実」だけである。 求められるのは自己と所属コミュニティの存在意義を己の能力によって誇示することだけだ。 もちろん同族や庇護者との繋がりを求めていた時期もあったが、自らの眷属を抱えた今となっては不要な感情だ。 では何故意識の中に浮上した? 思考を巡らす…この管理区域の中、私が決めた事だけが文字通り「現実」だ。 この世界での物理法則でさえ私には逆らえない。 となればどうして感傷の類いが引き出されたのか?要因はどこにある? 持て余す時間だけが私を翻弄してくれる稀有な存在であったが、こう何度も振り回されるのは厄介だな。 私は特別にあつらえさせた玉座に僅かな違和感を覚えて立ち上がった。 いつもと変わらないはずの支配者の座。...
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー信頼できる制約と信用されぬ盟約ー
人が抱える喪失感とはいつでも興味深いモノを生み出すのだよ。 愉悦に浸る彼女の口角は直視に耐えないほど歪んでいる。 この優雅な空間にあまりにも不似合いなその在りようは私の心をざわつかせて収まらない。 社会性を持ち合わせた野獣という印象の彼女はすでに私の内心評価を済ませているようで、料理の算段に心躍らせているのが透けて見える。 困ったものだ…これから戦わなくてはならない相手より面倒な人間に話を持ってきてしまったものだ。 それでも彼女の抱えている魔導術式やそれを運用できる人員は私の、いや我々の悲願を叶えるのに必須なもの。 そもそも話をできるこの機会が奇跡の賜物なのだ。 それに各方面の貸しをあらかた使い切って設けたこの時間を無為に使ってはこれからどれだけの人間の未来が閉ざされるかわかったものではない。 私一人が路頭に迷うだけでは済まないリソース保障が降りかかることは目に見えていた。 しかし捕食者の前に差し出された食材である自分を幻視するようなこの場の空気はあまりにも息苦しい。 最初から”対等な対話”ができるとは思っていなかったが、これほどの圧迫感のなかで
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー理不尽な愛と不条理な思いやりー
もしこの世の全てが制御できていたならばお前は何も失わなかったはずだ。 心ない事実の指摘が私の自我を抉った。 かつて途方もない理想を追い求めた同志であった彼らは私に対してあからさまな敵意を向けて罵倒を続けている。 夢を具現化する器であったこの世界はいつのまにか理不尽と現実の不条理さを私に突きつけていた。 自分の全能感を心から信じられたあの日、誰もが自分の理想像を現実のものとしていた。 私もあの成功者達と同じ道を辿り特別な自分像を得られる…そのはずだった。 しかし実際に「聖典」の文言を読み進めて愕然とした。 読者として対応している前提がまるで違っている。 「世界を救う聖剣を引き抜いた後の戦いかた」。 「神域の探索のやり方」。 「天界の民との交渉術」。 あまりにも俗世とかけ離れ、あまりにも現実感の無い内容だけが書き連ねられていた。 幼年期に親から読んでもらう絵本のごときその内容に私は戸惑いを隠せなかった。 それでも仲間たちは「聖典」の文言を一部でも持ち帰った私を信じて全てを賭けてくれたのだ。 それから途方もない探究の日々が始まった…...
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー事実に咲く花、史実に実る果実ー
純白のキャンバスに一輪の花…それが彼女の描く精一杯の憧憬だった。 それでもその孤独を感じさせない花の在りようは様々なものを惹きつけることとなった。 それはこの世界を定義づける摂理であり、日々の日常を彩る時間であり、理想を具現化する意思であった。 それらは花の周りに普遍的な生活の絵を映し出していく。 するとキャンバスに描かれたその絵は人々に愛を注がれることとなり彼女の理想を次々に現実のものとしていく。 そして紡がれだしたキャンバスの絵は人々の理想を叶えるための象徴となっていった。 次第に彼女の理想はその絵を愛する人々の日々を表現することへ変わっていく。 親しみが恋愛へと移っていく様、憧れが愛しさへ変わっていく様、嬉しさが喜びの共有になっていく様子を表現する度に彼女の胸は沸き立った。 人々が子を成して家庭を営みその血脈を紡ぐ様は彼女自身の存在理由にさえなっていたのだ。 無論誰もその聖域に踏み込むことはしなかった…神話の時代の平穏すら霞むほどの完全さに不満を抱く者がいるはずが無かった。 そう神よりも不遜で傲慢な存在がこの絵の事をかぎつけた、その時までは
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー存在するがゆえのリスク、立ち去ることによるメリットー
人間社会のルールに従えないなら獣として駆除されるのも当然…そうよね? 「事情聴取」を終えた彼女はそれだけを告げると私に対しての興味を失った。 今まで積み重ねてきた私の”物語”はその瞬間に現実性を剥奪されたのだ。 この場において私の意識の中を走馬灯が悠長に走り抜けていく。 初めて賛同を得られた際の夢心地の気持ち良さ。 あまりにも苦い現実と組み合って解決策を求めていた長い夜。 そしてそれらを組み伏せて承認を勝ち取った日の達成感…全てがただの過去の思い出となり霧散していく。 いずれは私たちに保証されていた権限や市民権も取り上げられて無力な日々に打ちのめされることになる。 それが「厳しい現実」だからしょうがないのか? いや、受け止められるはずもない。 この儀式場の魔術構築は私たちが文字通り身命を賭して作り上げたもの。 私たちの持つ独自の儀式術と生体魔力をもってしか保守していけないシステムになっている。 それはお目付け役の彼女が一番理解しているはず。 …それならどうして彼女はこの場で私たちを切り捨てようとしているのか。 理解できないこの場の状況が私の意識を
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー適任なトラブルメーカーと不適格な優等生ー
どうすればこの願いは叶えられるのでしょうか? …彼の純粋な意思が込められた瞳を直視できずに私はおもわず目を逸らした。 あらゆる手段を用いて万全を尽くしていた。 考えられる全ての要因を満たしていた筈だった。 神の加護ですら十全に授かっていたように感じていたのだ。 しかし現状彼らの望むものはひとつとして得られていない。 現実という名の事実認識はあまりにも残酷に彼らの願望の未達ぶりを突き付けているのだ。 もはや彼らの自我が救済されるには彼ら自身の魂がその大願の礎となることだけだろう。 ”その心身が捧げられた道が後から歩む後進の同胞たちの道しるべとなるのが最善である。” 私はそのあまりにも無慈悲な通達を告げることが自らの最後の役目だと考え、意を決して彼に視線を戻した。 彼、いや彼らの私に向ける瞳は今なお万全の解決手段を授けてもらえることを微塵も疑っていない。 だが今までのような全能の神託を授けることは今の私には不可能なのだ。 それでも私はこの場での自らの使命を遂行するべく呼吸を整えて両手に神気を収束させていく。 次第に淡い光がこの儀式場にあふれ出し彼らの
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー諮問機関員達の辿る遥かな旅路ー
今や私の命運の行く末を決めるのは神でもわが主でもなくなった。 自らの居室に煌めく賞賛と達成の証を眺めて彼はその事実を噛みしめる。 眼下に広がる日常風景は正に幼いころ手が届かなかった絵本の中の理想像であった。 人権や市民権などという言葉が不必要なほどの平穏な日々が当たり前のように営まれている。 …しかし私の大事な人達はその場にいてはくれない。 はるか昔に失われた当然の現実を忘れたわけではなかったが、それでも今ここにある事実は多くの人々の欠落を埋めている。 そう、それで構わないはずであった。例え今までの道のりがただの自己満足であったとしても道中で得られた様々なものは私の新しい拠り所となってくれているからだ。 そして彼は今なお鮮やかな過去の憧憬を改めて意識の底に片づけようとして、違和感を覚える。 完全であったはずの自分の心象風景が「描き直されている」ように思えたのだ。 仲間たちとの出会いの場、熱情や理想とともに駆け抜けた日々の中に覚えのない情報が盛り込まれている。 愕然となり我に返ると妙な気配がこの居室に存在していることに気づく。 私はとっさに振り返っ
XMLギャラクシー"ジェネシス•コード"ー楽観的リスクマネジメントの招く惨劇ー
今貴方が話してくれた「実用的なシナリオ」には現状どのくらいの価値があるのかしら? 彼女が発した"素朴な疑問"はこの場の熱量を容易く奪い去った。 …約束されていたはずの栄華への道。 あまりにも現実性を持ちすぎていた幻想はあっさりと私たちを見捨てたように感じている。 件の超越者が語っていた「普遍的」の中に自分たちは入っていなかったのだろう。 そう、あの日見た物心つかない幼子が書いたような絵日記構文形式の提案書には恥ずかしいぐらいのバラ色の未来が想定されていた。 失笑と嘲笑まみれになって”現実”の摂理に塗りつぶされるのが当然と思われたその物語は逆にこの世の常識と正着を塗り替えるにとどまらず新たなセカイの器を膨大な数生み出すに至っている。 息をするのと同じほどの容易さで幻想を具現化し続けたその提案書の書式はこの世の正しさまでをも定義しているのだ。 だからこそ私たちも自らの正しさを見直し、皆が辿った栄華へのプロセスに己が未来を賭けた。 しかし目の前に突き付けられた”現実”は今までと同じ絶望的存在感を持って私たちの行く道を閉ざしている。 いや話には聞いたこと
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー粗雑なリアルと完璧なリアリティー
この景色こそあなたと彼らが望んだ永遠のかたち…そうでしょう? 彼女はワイングラスの中の煉瓦色に染まった美酒に語りかけた。 ついに手に入れた眼下の雄大な世界は数々の理想や願望を代償に造り上げた私の理想像そのものだ。 だがすでに失われた彼らの平穏な日々はもう決して戻らないものであって、誰もがそれを自認している。 だからこそ語り継がれたその日常の記憶は唯一無二な価値を持って”いた”のだ。 彼女の脳裏に追憶と記憶が蘇る。 「失われたあの日の日常、その記憶のカタチが誰でも触れられるものになったとしたら?」 …あり得ないその仮定を可能にするのは神代の時代の創世魔法ぐらいのものだろうよ。 実際にかつての日常を過ごした者たちは皆悲しそうに彼女に不変の「現実」を説いて今の生活へ戻っていった。 そんな悲痛な後ろ姿を永らく見てきた彼女は失われた「聖典」の原本を追い求めることにする。 そうかつての日々の日常風景が刻まれた緋色の景色。 その中には失われた世界そのものを具現化させうる魔法すらあるのではないのか。 無数の夢や願望に実体を与えたといわれる「聖典」の映した情景こそ
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー乱動する希望と毅然とした願望ー
地獄の釜から出ることができても結局得たものは無かったよ。 それだけをつぶやくと彼は用意されていた水を一気に飲み干した。 簡素なテーブルに空のコップが置かれてひとときの静寂が部屋の空気を支配する。 尋問されている自覚がまるでない彼のたたずまいは審問官の情緒に少なからず影響を与えている。 まるで自分たちの方が品定めされているかのような彼の悠然とした態度は審問官の思考を空転させていて得るべき情報はまるで無しだ。 このままでは私の個人IDから市民権が剥奪されるのも時間の問題かもしれないな。 審問官は想定しても仕方のない未来を脳裏に浮かべてしまい、身震いをした。 いや最初からわかっていた。 「聖典」関連事案の管理権限を持つ桜梅桃橘に連なる事案が回ってくることの意味は明白。 ”失態を犯した者への見せしめ処刑”…そう”「この世界の取り決め」をその身で理解しろ”だ。 しかし例外的にわが身の破滅を逃れた者もいたと聞いたことがある。 …世界の側の人間になること。 あまりにも現実感の無い解決策に笑ってしまいそうだ。まだ自我が未熟な私の娘ですらそんなおとぎ話を喜ぶような
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー本能の枷と理性による渇望ー
この世の苦悩にあれほど抗い、溺れる様…なんとも人間らしいと思わないかね? 目の前のしわがれた老人は愉快げにワイングラスを回して愉悦に浸っている。 この場の主の言葉に応じて式場の熱気は一層膨れ上がった。 これまでに構築してきた人的ネットワークのみならず確保できた利権や物資の数々はこれからの”彼ら”の未来や栄華を約束するもの。 そしてこれまで手を焼かされてきた「敵対勢力」の悲惨な末路は”彼ら”の最も望むものだ。 さらに今回の式典の目的は獲得した「資材」によってもたらされる新たな未来像のお披露目である。 式場内の式典参加者はまさに到達と達成の歓喜の只中にいる…誰もがこの世の現実をねじ伏せた喜びをかみしめているのだ。 そこに投じられた主の言葉。”彼ら”は自らの醜い優越感を自覚もせずこの場の空気を満喫しているのであった。 無理もない…現実的という言葉に長らく苦しめられていた日々は過去のモノとはいえ今でも自我意識を縛ってきた。 公平や平等の名の元で強いられていた苦役はついにその支配力を失った。 今や”彼ら”の緋色の瞳を塗りつぶしていた失望の色は既に消えていて
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー安息の地に唯一無二の祝福をー
もしあなたが道に迷っているのなら私がその手を引いてあげる。 煌々と光を放つ月の光の中、彼女はその手を差し出し許容の意思を示した。 …まるで夢の中のような現実感の無さ。 一瞬その言葉の意味するところを見失ったが、他に意図する事は無いと理解した。 正に願ってもないことである。 日々激しさを増していくばかりの「正義への適応」に嫌気が差していたところだった。 しかし"彼女"は「世界側の存在」。私のような名も無き歯車ひとつに手を差し伸べる意義があるのか? 散々現実という名の搾取構造を維持する為のみに働いてきた自我が目の前の状況把握に疑問を投げかけてくる。 そう私…いや"私たち"にとっての現実は「シャングリラ•プロセス」が維持してくれる観念上世界のみだ。 その揺籠の中で現実を享受し現実を承認する事だけが"私たち"にとっての役割であり存在意義である。 だが"彼女"なら世界の部品でしかない"私たち"にも自我による自由の獲得を成しえてくれるのか? 意識の中を願望と希望的観測が無い混ぜとなる。 そもそも答えなど出せる機能も思考フォーマットも持ち得ていない。...
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー世界の定めと魔人の宿命ー
適者生存こそがこの世の理…素直に従うのが道理ではないかしら? 淡々と告げられた死刑宣告に返す言葉が出てこなかった。 人生の全てと言っても過言では無いものを捧げてきた事へのねぎらいの言葉はなく、「泥よけ」を始めとした汚れ仕事に滅私奉公し続けてきた忠誠への感謝もその言葉には含まれてはいない。 ただ非合法なカルテルによる「聖典」から得られる恩恵分配のシステムに泥を塗った…ただ"それだけ"の事だ。 あまりにも簡単な尊厳剥奪の儀式はすでに終わってしまった。 あとは公共の敵として火炙りされて処分記録に名を連ねるだけの運命は確定したのだ。 彼女の目線が黒服達の方へ流れ、シナリオの執行許可が降りる。 これから連行される場所は自明であった。 今まで私も連行する側として決裁をする立場であり数えきれない程の命乞いを聞いてきた。 今回自分の番が回ってきてこれまで切り捨ててきた者達の顔が脳裏に浮かんでいた。 しかし後悔や罪悪感といった人間として当然の感情は沸いてこない。 元々廃棄処分されるのが宿命付けられていた歯車には当然なのだと不思議な納得感があった。...
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー偽りの理想と幻の唯一神ー
現実がいつまでも更新されずにいる世界にこれからの未来など望むべくもないでしょう。 極めて冷ややかに告げられた言葉にこの場の空気がひび割れたように感じた。 無理もない…慈悲無き断罪とも取れる今の通告は言葉通りの死刑宣告そのものである。 ほんの一部とはいえこれまで「聖典」の関連技術のもたらす恩恵は富とコミュニティの地位と競争相手の排除の全てを長らく無条件に保証してくれていた。 その恩恵が一律に取り上げられるとなればこのコミュニティの存続そのものの命脈が絶たれることと同義だ。 誰もがその事態を骨の髄まで理解している。 そして新たにその権限が委譲される組織にこれからの生殺与奪を握られる事がどのような意味を持つのか想像できない者はこの場にいないだろう。 それでもなお目の前の現実を直視できる人間はいない。 再び現実が自分たちの「敵」となり「支配者」となる…永らく楽園の住人でいられた彼らに受け入れられるものでは到底ないはずだ。 だが先ほど決定された裁定は現実そのものであり、この場のコミュニティ構成員全員がかつての宿命に隷属することになるのは確定事項なのだ。..
bottom of page