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ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー信頼できる制約と信用されぬ盟約ー

  • 5 日前
  • 読了時間: 3分

人が抱える喪失感とはいつでも興味深いモノを生み出すのだよ。


愉悦に浸る彼女の口角は直視に耐えないほど歪んでいる。


この優雅な空間にあまりにも不似合いなその在りようは私の心をざわつかせて収まらない。


社会性を持ち合わせた野獣という印象の彼女はすでに私の内心評価を済ませているようで、料理の算段に心躍らせているのが透けて見える。


困ったものだ…これから戦わなくてはならない相手より面倒な人間に話を持ってきてしまったものだ。


それでも彼女の抱えている魔導術式やそれを運用できる人員は私の、いや我々の悲願を叶えるのに必須なもの。


そもそも話をできるこの機会が奇跡の賜物なのだ。


それに各方面の貸しをあらかた使い切って設けたこの時間を無為に使ってはこれからどれだけの人間の未来が閉ざされるかわかったものではない。


私一人が路頭に迷うだけでは済まないリソース保障が降りかかることは目に見えていた。


しかし捕食者の前に差し出された食材である自分を幻視するようなこの場の空気はあまりにも息苦しい。


最初から”対等な対話”ができるとは思っていなかったが、これほどの圧迫感のなかで「商談」をする想定はしていなかった。


”言葉は通じるし話は聞いてくれるようにしてあるから”と話してくれた仲介役の彼の笑顔が虚構のものだったとは思いたくないが、事実はもっと適切に伝えておいてほしかった。


あらゆる後悔の言葉が脳裏に溢れ出していた。


それでも私は言葉を紡がなくてはならない…我々のこれからの日常を自らの手で作っていくために。


私の数瞬の逡巡を興味深そうに見ていた彼女に私は本題を投げかけることにする。


「タイドマーク様…この度の儀式に必要な魔術リソースの配分ですが」


私が話し始めた途端、彼女は不自然な笑顔で応じていた。


…その時私の脳内に直接届いた、いや閃いた言葉があった。


「そう、ようやく我が供物となる決心がついたようね?」


この儀式で誰にとっての”喪失”が必要だったのか気が付いたとき私の現実は急速にその意味を焼失していった。



「恐れながらタイドマーク様…此度の決議内容はこの”摂理”の柱を護る我らの士気をも揺るがしかねないものであったと愚考するものです。なにとぞ寛大な処置を検討してくださいませんか?」


副官が紡いだその言葉は彼ひとりのものにしてはあまりに重く響いた。


サラはその真意をゆっくりと嚙み締めたあとで返答の言葉をどうするか決めかねていた。


今回起きた”正識の門”襲撃の件はあまりにイレギュラーが積みあがった事態。


だからこそ皆の恐怖を最小限に抑える手段を取ったわけだが、なかなか人間の心とはわからないものだ。


私の管轄する”封鍵”である「神誅の盾」が司る秩序は信賞必罰を具現化するもの。


今までの平和を維持し続けた褒章として彼らは人間という苦しみに縛られた存在から解き放たれた。


それはこの”摂理”の柱に攻め入ってきた者たちにも与えられた温情であった…彼らも誰かの平穏のために戦ってきた勇士であっただろうから。


そして術式の一部となることで彼らの心の平穏は恒久なものになったはずだった。


それでも目の前の副官は私の決断を諫めようとしている。


サラは今ぶつけられている自分の辞書に記述されていない感情や理念を受け止めてみようとするが疑問は意識の中で形を結ばない。


理解できる概念基盤がそもそも存在しないのだ。


しかしサラは信頼する副官に対してひとこと労いの言葉で返答することにする。


あなたはそのようなことに苦しまなくていいのですよと。


…その優し気な言霊は結果的に彼に冷徹な決意を固めさせる決定打となった。



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