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ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー本能の枷と理性による渇望ー

  • 5 日前
  • 読了時間: 3分

この世の苦悩にあれほど抗い、溺れる様…なんとも人間らしいと思わないかね?


目の前のしわがれた老人は愉快げにワイングラスを回して愉悦に浸っている。


この場の主の言葉に応じて式場の熱気は一層膨れ上がった。


これまでに構築してきた人的ネットワークのみならず確保できた利権や物資の数々はこれからの”彼ら”の未来や栄華を約束するもの。


そしてこれまで手を焼かされてきた「敵対勢力」の悲惨な末路は”彼ら”の最も望むものだ。


さらに今回の式典の目的は獲得した「資材」によってもたらされる新たな未来像のお披露目である。


式場内の式典参加者はまさに到達と達成の歓喜の只中にいる…誰もがこの世の現実をねじ伏せた喜びをかみしめているのだ。


そこに投じられた主の言葉。”彼ら”は自らの醜い優越感を自覚もせずこの場の空気を満喫しているのであった。


無理もない…現実的という言葉に長らく苦しめられていた日々は過去のモノとはいえ今でも自我意識を縛ってきた。


公平や平等の名の元で強いられていた苦役はついにその支配力を失った。


今や”彼ら”の緋色の瞳を塗りつぶしていた失望の色は既に消えていて、襟に輝く蛇の徽章も誇らしげな光を放っているように見える。


”もはや我らは事前に決められた運命に隷属するだけの人形では無い!”


皆がこれまでの艱難辛苦を語り合い、そして華々しく花開くであろうこれからの日々に胸を躍らせている。


老人は”彼ら”を愛しい我が子のように見つめてまた一口手元の美酒を煽る。


…新たな運命の歯車たちの旅立ちを祝して。




「それでその件は俺の管轄で進めていいってことだな?桃瀬の姫さまよぉ」


「…あなたのその口調は自身の自信の無さを強調しているわ。もっと気にした方がいいわね。」


紗季はあからさまな侮蔑を部下の男にぶつけると、冷めてしまった紅茶を下げるように目配せをする。


それは改めての退室勧告であった。


先日行われた式典で決まった事は大まかに分類して3つ。


シンギュラリティに達した人形達の自我意識ネットワークの本格稼働。


人形たちの精神衛生や情動管理プログラムの統制システムのチェック体制の始動。


「アスクレピオス」のコミュニティメンバーへの市民権付与。


そのどれもがひとりで背負うことはできない重さのものだ。


紗季はそれを脳内で反芻すると報告書に目を落として、訝る視線に顔を上げず言葉を投げた。


「…いつまでここにいるつもり?あなたたちに任せた業務はいつも通りに進めて。それ以上の指示はないわよ。」


そっけなく告げられた部下の男は肩をすくめて「連れないねえ」とのリアクションを取る。


完全に突き放されとりつく島もない男は仕方なく腰を上げて捨て台詞のひとつでも残しておこうと考えたが、結局その言葉を飲み込んで執務室を出ることにした。


…自分の上司がせめて楽しく現実という舞台上で踊れることを期待して。




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