ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー理不尽な愛と不条理な思いやりー
- 5 日前
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もしこの世の全てが制御できていたならばお前は何も失わなかったはずだ。
心ない事実の指摘が私の自我を抉った。
かつて途方もない理想を追い求めた同志であった彼らは私に対してあからさまな敵意を向けて罵倒を続けている。
夢を具現化する器であったこの世界はいつのまにか理不尽と現実の不条理さを私に突きつけていた。
自分の全能感を心から信じられたあの日、誰もが自分の理想像を現実のものとしていた。
私もあの成功者達と同じ道を辿り特別な自分像を得られる…そのはずだった。
しかし実際に「聖典」の文言を読み進めて愕然とした。
読者として対応している前提がまるで違っている。
「世界を救う聖剣を引き抜いた後の戦いかた」。
「神域の探索のやり方」。
「天界の民との交渉術」。
あまりにも俗世とかけ離れ、あまりにも現実感の無い内容だけが書き連ねられていた。
幼年期に親から読んでもらう絵本のごときその内容に私は戸惑いを隠せなかった。
それでも仲間たちは「聖典」の文言を一部でも持ち帰った私を信じて全てを賭けてくれたのだ。
それから途方もない探究の日々が始まった…
自分なりの語句解釈に始まり独自の世界観構築や書かれた理論の実用化。
そしてまがりなりにも私なりの世界観を組み立て術式は完成したはずだった。
しかし目の前に現れたのは目を覆わんばかりの不適合体であり不都合の化身であったのだ。
そこまでの記憶が瞬時に意識に流れて消えていく。
もはや思い出すことすら過負荷がかかるその後の記憶は再生されなかった。
私はその時すでに現世を知覚できていなかったから。
「お嬢様…このままではフォースナイト公に顔向けできませんぞ?この「道徳」の柱の管理官としての立場の重さを感じて頂かないと。聞いていますかエリス様。」
あまりに既視感のあるお小言を聞いてエリスの精神衛生は著しく悪化している。
「正識の門」の入り口が陥落したのもついこの間であったにも関わらずそれぞれの柱の管理官が今まさに交戦中らしいとの報告を受けてうんざりしたのがひととき前。
それに”封鍵”の権能がもたらす秩序すら危うくなっていると聞いては気が重くなるのも当然のことだ。
エリスは自らが管理している封鍵、「剥装の杖」を一瞥して状況を鑑みる。
この「道徳」の柱の領域内は「自我意識の土台」を崩す範囲結界が常時展開されている状態であり侵入者は自他の境界を失い自失するのが必然だ。
どれほどの異能者や魔術師であっても自分の意思を持たぬ木偶となっては戦闘力を保持し続けられまい。
…しかし侵入者たちは依然健在であり封鍵の担い手である私を探しているとのことだ。
あまりにざっくりとした現状認識しかできない事態にエリスは辟易していたが、これ以上自分の管理領域を好き放題荒らされるのを放置しているわけにもいかないのを自認して目の前の老執事に目配せをした。
”しょうがないわね。お客様をここへお連れして?お茶のお相手ぐらいにはなるでしょう。”だ。
明らかにやる気を見せない主の態度は彼の感情を少なからず逆なでてはいたが彼も年端のいかない子供でも血気はやる若者でもない。不満は即座に飲み込んで「招待」の用意を始める。
この専用の隔離空間へ繋がる道が客人たちの前に現れる。
すると即座にひとりの人影がエリスの前に姿を見せた…あまりにも場違いな空気をまとっていたその客人はエリスの菫色の瞳を見つめたあと一礼をして、手短な挨拶の言葉を紡いだ。
「初めまして。”道徳”の担い手フォースナイト様…貴女の日常の在り方、私が丸ごと譲り受けましょう
。」
まるで愛しい伴侶でも迎えに来たかのような甘い言葉が響き渡り、あまりにも異様な空気感がこの場に満たされる。
それはこれから起こる因果が彼の望む形で決められていくかのような印象を持たせた。
エリスはいかにも面倒だな、という感情を抑え込み客人の瞳を見据える。
これはどちらの紡ぐ因果がこれからの未来を決定するかを競う具現化力のぶつかり合いだ。
それは正しさという言葉の定義をどちらが決めるかの儀式の始まりであった。

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