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ストーリー
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー未踏の地が求める誓約と制約ー
我らの成功の証は今存在している絆そのものである。違うかね…? その言葉の不穏さに聴衆達の心はざわつきだした。 それではこれまで尽くしてその身を捧げていった同胞達は私的ネットワークの構築の為に使い潰されたと同義ではないのか。 誰もが不変で普遍的な救済を得られる枠組みの為では無かったというのか。 必然的な疑念が聴衆の胸中を焼き、生まれた猜疑心は登壇者への罵声に変わっていく。 登壇している彼はその様子を明らかな蔑視を持って見下ろしている。 "そろそろ潮時だな"。 あまりにも自分勝手な打算をして天を仰いだ壇上の彼は苦笑を浮かべて指を鳴らした。 瞬時に世界から色彩が失われて人々はモノクロの静止画と化す。 ありがとう。我が愛しき賛同者たちよ…あの日捧げてくれた誓いと願いは私がこれから有用に使わせてもらうよ。 彼は心にも無い感謝の念を残してその場を立ち去った。 あまりにも呆気なく日常は断絶されたのだ。 「それが当時締結された"茜色の誓約"のもたらした悲劇の実情だった、か。ご苦労様二階堂さん。」 ちひろは呼びつけてあった秘書に今後の事案対処を支持すると優芽に対し
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー無様な悔恨と捨てるべき希望ー
それは些細な不信感と猜疑心がもたらした致命的判断ミスだった。 その因果の始まりは日々の日常における違和感の積み重ねに起因するものだったのだろう。 振り返ってみれば始まりの契約を交わした時から明らかなおかしさを感じていた。 あまりにも雑な儀式の組み立て、見るからに過剰な隠匿技術、加えてこちら側の見識を軽視するような明らかな侮蔑的対応。 最初は魔術の到達点のひとつとされる「聖典」に関わる故の特異さなのかと納得しようともした。 それに「聖典」への正当なアクセス権は"神々"によって管理されていて手が出せない事も我らの 目を曇らせる要因であった。 だがここまでの犠牲を払って何も得られませんでしたでは済まされない。 これまでに積み上げた人脈や信用はおろかコミュニティ全体の未来の可能性までを注ぎこんでいるこの事案が失敗に終わるとき…それは文字通りの地獄をこの身で味わう事になる時だ。 この身は死者の怨嗟と怨念に炙られ続ける木偶人形になり久遠の責め苦にのたうつ事になるだろう。 …あり得ない。受け入れられるはずも無い。 そこまでが脳裏を駆け巡り、私はひとつの解決策を
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー誠実な欺瞞と心無き理想ー
この広大な書庫に差し込む月の光にかつての優しさは感じられなくなっていた。 それは永く続いた庇護を受けた日々が必要なくなって久しいからかもしれない。 そう夢を見ることの意義すらわからずに目の前の惨状を嘆くしかなかったあの頃の悪夢は今や遠い日の思い出の1ページだ。 当時心の拠り所であった正義の在り方や高潔な理想もすでに日記の中に閉じ込めたままである。 彼女はそこまでを思い返すと冷めてしまったハーブティーを口にする。 するとあの頃に追い求めた理想や理念のごとき青くて渋い味が胸のなかに満たされていく気がした。 結局救えなかったあの日の希望…挫折と共に投げ捨てた机上の救済論は未だに私の胸を締めつける。 確かに存在した未熟な正義感と燃え盛っていた胸の中の熱情。 様々な現実に屈した今であってもそれらが皆の望んだ世界を組み上げる素材となることを否定したくはないのだ。 飲めたものではないそのティーカップの中身を一気に飲み干した彼女はソーサーの上にそっとカップをおくと何気なく息を吐き出した。 …正しい理屈でなくとも、そこに人々の認める大義がなくとも構わない。 私が成
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー追い求めた先の理想の在り方ー
世界の可能性は共有資産…故に閉じたこの環境をこれ以上支配することに意義は無いわ。 静かに紡がれた彼女の結論に皆の自我意識が軋む音が聞こえた。 これまで積み上げた共通認識もそれぞれが築きあげたアイデンティティも風前の灯し火のごとく存在感を失ってしまうように感じるのは気のせいでは無いだろう。 この根源の森の中において彼女の意思決定は不可侵の不文律であり神が定める運命と同義である。 そう神代の時代から連綿と続けた歴史が彼女の「正当性」を証明していた。 それゆえにどれほどの絶望的事態も破局的な天災に直面したときであっても我々の日常は保護されたのだ。 …それだけにその経験則の蓄積を全て否定するかのような今回の稟議はこの場の誰にとっても理解不能であった。 そして皆が懇願するような目で彼女の真意を図ろうとする。 しかし不可能だ。 この拝殿に集った彼女の眷属たちは古老や重鎮まで含めて彼女の造った世界以外の現実を知らない。 そもそも可能性という言葉の意味するところすら自分ひとりでは満足な説明などできない。 自らの生きている世界の摂理を理解しようとすら思えない。
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー真価への疑問と進化の軌跡ー
意思の込められた言霊が現実を呼び寄せる…それだけは事実よ。 対峙している私の感情を激しく揺さぶった彼女の眼光。 それは怜悧でありながら灼熱のごとき激しさを持ってこの場の空気を染め上げた。 あまりにも凍りついた現状に対して誰もが希望を持つこと自体を非現実的だと認めていた。 長きに渡る塩漬けな環境に置かれたことには必然があり、これから先も変わりえる要因は出てこないというのが今でも現実的な判断とされている。それはコミュニティ内での不文律になっていて不可侵の聖域ですらあった…昔のきらびやかな思い出に浸るためだけの記念碑であり美談としての鑑賞物。 そういまさらそれを実用化しようなど冗談のネタにすらならない。 当時の愛すべき日常のダイアグラムとしての機能さえ維持してあればいい。 コミュニティの創設メンバーですら今やその認識を黙認していた。 そのまどろみの停滞を協議の上ですり合わせる為だけに開かれたこの場で放たれた彼女の言葉はさぞ異質な波紋をこの場の面々の心に生んだだろう…理想像を現実に具現化するという困難を、それがもたらす挫折と無力感を誰もが魂に刻まれている
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー認知の及ばぬ真理の在り方ー
そう、私の夢を受容できる器だけが必要だった…それだけよ。 彼女はそれだけを告げると宗教画に描かれた聖女のごとく優しく微笑んでいた。 まるで慈悲というものをそのまま具現化したような光を宿したその瞳に「射抜かれた」私の意識は瞬く間に凍りつく。 あまりにも与えられることが当然だった愛と庇護。 それによって維持されてきた日々の日常という幻想は今現在の唯一の現実である。 まさかその因果を積み上げてきた本人が現状そのものを否定する事など想定できるはずもなかった。 「"現実"を術者の主観的観測で限定的に区切る事による現象改変の呪法…?この間も似たような事案を聞いた気がするけど先日の彼女と関連事項はあったりするの?」 新名は最早煙よりも軽くなっている現状の使命感を嘆いてとりあえずの返答をした。 最近異常な程多い"現実"改変による不都合やトラブルの数々は爆発的に増加していて対処の手はまるで足りていない。 新名の管轄エリアにおいても相次いで因果改変による現場の機能不全が夥しい件数報告があり頭が痛い事この上無い。 思うがままに振るわれる異能によりあっさり瓦解していく治
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー認知と受容、永遠たる旅路ー
この大河の流れが行き着く先…そう因果の果ての景色。興味は無いのかな? 空の彼方を思わせるように透明な彼女の瞳に射すくめられて私は呆然と立ちつくした。 源流から湧き出した可能性の奔流はもはや自分達でコントロールできないところまで来ている。 しかし彼女はその結末を全て観測してきたかのような、受容してきたかのような色の瞳で私に語りかけている。 おそらく彼女が求めているのは自分の視座の共有に違いないだろう。 そして悠久の時の中で生きていることを実感したいのだ。 だがそれがかなわないのは説明しなくとも充分わかっている筈だ…ただの人間である私の自我の器に悠久の時を受容できるわけもない。 それでも彼女が私に手を差し出す理由は何だろう?この場での私の役目は何なのか? …わかりきっている。だがそれを認めたくないだけだ。 その一瞬の逡巡の後、私は彼女の問いに明確な意思を示した。 それを嬉しそうに受け取った彼女の満面の笑顔。 旅の道連れのシナリオがこの瞬間確定したことを自覚する間もなく私達の物語は始まった。 「天衣無縫の恐ろしさは"奇跡の日常化"にあるの。そう"普通"
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー普遍の対価と不変なる代償ー
…そう、あの場所への「道」が開けるのも時間の問題だったというわけね。 燃え盛る激情を持て余しながらも彼女は淡々と事実確認だけを進める。 最近目に見えて増大している非常事態報告。 手の打ちようの無い超自然災害。 日々の日常を荒らし回る超越者達の跳梁跋扈。 それらがもたらしているセーフティネットであるはずの"現実"の崩壊は人々の日常感を機能不全に追い込み、平和を維持する為の不文律をことごとく形骸化させるに至っている。 地獄の釜の蓋を開けて誰が喜ぶのかは見当がつかないが、嗜虐趣味の愉快犯の仕業でない事を心から祈るばかりだ。 目前の脅威を直視できない彼女の思考領域はとりとめの無い言葉遊びの為だけに稼働している。 それでも現時点で彼女以外に事案の決裁権限が無い事には厳然たる意味がある。 明らかに巨大な規模の呪術儀式方陣が起動している現状に対抗策を実行できるのは彼女の他にいないのだ。 この議場に集まった面々は一縷の希望を託してすがるように主の命を待っている。 その真摯な眼差しを精一杯の誠意ある言葉で受け止めた彼女は意を決してこれからの「攻略ビジョン」を話し出
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー彼女の示した天賦のセカイー
これは表向き、そう表明上だけの契約よ…わかっているわね? 宵闇に染まりきった祭殿の中で涼やかな声音だけが私の意識を通り抜けた。 そして私はもはや何も産み出す事のなくなった経典を投げ出して彼女へ恭順の意を示す。 その様子を満足げに見下ろして彼女は自らの手首にささやかな傷痕をつける。 傷口からしたたり落ちる朱色の凶々しき液体が足下に溜まっていき、生命の鼓動が床一面に満たされていく。 そして透き通るような水鏡のごとき様相となった血溜まりからは見るものの自我を飲み込む艶めかしい魅惑が放たれている。 彼女は傅いたままの私に歩み寄り、そっと甘い言葉を囁く… 私の脳はその瞬間にもたらされた快楽の奔流に抗えず自らの身体の統制権をあっさり手放すにいたる。 哀れな傀儡に成り果てた私だったものは足元の血溜まりに無様にたおれこんだ。 その身体を咀嚼するように彼女の血液が私だったものに染み込んでその色をどす黒い鈍色に変えていく。 久遠とも思えるような一瞬後、彼女は私だったものの体を抱き起こして不作法に唇を重ねた。 血染めの骸から再び命の脈動が響き始める。...
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー悪魔の矜持、天使の尊厳ー
あなたは嗜好品では無い…例えそれが客観的観測による事実であっても、ね? とてつもなく長い説法のあと導かれた断定の言葉。 最早なにを求めてこの話を聞いていたのか忘れていた。 それでも彼女は笑顔を絶やさずにその言葉をもってこの議題を締めくくった。 彼女の周りを固めている従者達はまるで私に唯一無二の救済がもたらされたと感じて終始穏やかな目で佇んでいる。 そしてこの場の誰もが恍惚を共有しておりその歓喜の様子は一切の疑問を受け付けないだろう事は明らかだ。 しかし目の前で幾度もの"奇跡"を共有してきた記憶は私の意識と現実感を縛っており、彼女が掲げる"救い"無くしては日々の平穏すら維持できないのは自明である。 どこからともなく自分を納得させる思考が私を屈服させた。 そうだ…何も特別な力を有さない私でも彼女のような超越者と同じ世界を見る事ができる。 それこそが何より大事で大切な事ではないのか? 私は疑念と不信感を意識の奥へと閉じ込め、授けられるはずの「特別」を受容すべく自我意識そのものを移譲する儀式に望む。 彼女の襟元に輝く白金の蓮の花をあしらった徽章。...
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー祝福の律動、摂理の蛮行ー
それは婚姻という名の契約義務を求めるという事だね…違うかい? こちらからの意志表示に対して彼女は改めての確認をする。 そう、これはこれから共に歩んでいくに際しての認識の擦り合わせ以上の意味を持っている事は明らかだ。 自分が望む幸せの形、彼と歩んでいくこれからの日々を夢想していく為のリソースとそれらを実現可能にする実用的理想論。どれもが私の望むこれからの日常を成り立たせるための必須要因である。 もちろんそれだけで「私の理想の日常」が成り立つならば苦労はしないだろう。 …しかしこちら側にも勝算が見込めるファクターは当然持ち合わせている。 ”現実”という概念そのものをねじ伏せることのできる私の特殊技能と固有異能。 その二つを組み合わせて成すことのできる特殊領域の中では”現実”という言葉は不可能と不条理の代名詞ではなくなる。 そしてその意味を知った者は「”私達”の世界」の従順たる僕となるのだ。 彼女はそこまでを確認した後、自らの愛する伴侶へ愛の言葉と誓いの印を捧げる。 それと共鳴するように彼女たちが受容するにふさわしい「優しいセカイ」の胎動が周囲にこだま
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー事実による評決、意志による断罪ー
偶像がもたらすのは夢のような展望と明日への希望だけであるべきだ…違うかね? 悪びれもせずに放たれた彼のその持論は議場の熱気を瞬時に霧散させた。 ヒートアップしていた議論の場に突如突きつけられたあまりにも重い存在感を孕んだ"結論"。 まるで異能による意識支配を思わせるその異様な言霊はあまりにも簡単にこの場の皆の思考力を奪っていた。 その様子をあまりにも嗜虐的な眼光をもって睥睨している彼…これからどのような宿命をこの場にもたらそうと考えているのかは誰にも類推できまい。 …加速度的に比重を増していく議場の空気の密度は明らかに常人の耐えられる限度を超えて来ている。 誰にもこの場における決定権、進行権が認められていない事は事実である。 そしてその息苦しさに耐えられず若い議員が彼に向けて糾弾を試みた。 児戯と表現するにも憚られるような稚拙な意志表示。 その言葉を満足げに受け止めた彼は一考して言葉を返す…努めて穏やかに紡がれたその一言。 何気ない日常単語でしかない"それ"は今後のコミュニティの存在意義を決定するものとなった。 「いくら万能の力があっても人は
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー理想の花園と管理人の思惑ー
"現実"というのはある程度フィクションでないといけないものなの…わかってくれるわね? すっかり冷めてしまった紅茶に興味を無くした彼女はメイドを呼びつけてティーセットを片付ける事を命じた。 それはこの場だけでなくこれからも建設的論義をする気が無いという意志表示に他ならなかった。 どうする…?ここに辿り着くまでに投げ打った信用や実績、今回の賭けの為に用意した莫大な補償金はたった今霧散した。 そして彼女は私の承諾の言葉を聞き届けてからこの場を立ち去るつもりだ。 もはや私の持ち出したリソース全てに興味を失った彼女にあらゆる懇願や説得は意味を成さないだろう。 それは私自身の身の破滅だけを意味しない。 この場て確約されるはずだった未来への道筋なくしては私に賭けてくれた関係者やその一族及び家族の日常そのものが失われる…それは文字通りの地獄の顕現だ。 全ては現実そのものの話しかしていなかったではないか…まるで納得も承諾もできる事が無い。 確かに理想論や理想像を現実にしてほしいというのが今回の議題ではあった。 それでもこちら側が用意したのは現実の糧そのものだ。彼女
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー林檎の徽章の蛇遣いー
これも巡り合わせがもたらしたこと…今回は不問としましょう。 なんとも涼やかな音色の通達が男の意識を揺るがしていた。 告げるべき言葉を伝え終えた主人は既に意識を男から外した様子であり、彼の滞在意義はとうの昔に終わっている。 しかし彼は跪いたまま動けないでいた。 完璧だったはずの戦略提案で喝采と自己承認を得られたときの熱気がまだ脳裏を灼いている。 半生を懸けて積み重ねた信頼と信用が煙のごとく消え去った現状をまだ現実だと認めたくないのだ。 それでも彼の襟元に輝く林檎の徽章は煌びやかな光を放っている…もはやただ美しいだけの装飾品に成り果てたそれは今後彼の未来と可能性を縛る挫折の象徴としてのしかかるのだろう。 そしていつまでも立ち上がる気配の無い男に衛兵の無骨な手が伸びる。 その瞳にかつての上官だった男に対しての配慮はまるで感じられない。 先程権限と共に全ての尊厳を奪われた彼はこのままこの謁見の間から放り出され、捨て駒としての運命が確定した…筈だった。 強引に立たされて緩慢な足取りで引きずられていく男。 その両耳のアクセサリーに輝く黒真珠のごとき石。...
ギャラクシー"ジェネシス•コード"ー夢想という名の世界構築ー
人はすべからく現実というフォーマットの夢の中で生きているものよ。 彼女はそれだけを告げ終わるとグラスを手にして微笑んだ。 ロンググラスの中でミントが揺蕩う様子はまるで今の彼女が手に入れた理想の環境を表すかのごとく煌めいている。 それは現世で構築された彼女の理想的原風景なのだろう。 そしてその具現化を成し得たという事実は彼女の世界における現実の意義が塗り変わったという事だ。 今話した持論もその確認の為の行為に過ぎないのだ。 自らが組み上げた夢の中を漂う彼女はまるで現世の水槽から飛び出した人魚のように思えた。 「ねぇマジェスタ…私ってダメな子かな?」 「ふむ、私の見解による所感で答えればいいのか?」質問に疑問系で返したマジェスタに対して彼女はあからさまな不機嫌を表した。 極星帝国皇室専用の私室である優雅なこの空間に似つかわしく無い不穏な空気が流れる。 本来なら国賓クラス待遇でもてなすべき人物に対して不躾な今の言葉は外交問題になってもおかしくないものだ。 いくら奔放に生きているマジェスタとはいえ自らの皇女としての立場を弁えていないはずは無い。 それはお
ギャラクシー"ジェネシス・コード"ー迷走する偶像と困惑する理想像ー
此度の器は馴染みが良いな…褒めて遣わすぞ。 寒々しい拝殿に響いたその声を恭しく賜った男はひとまず胸を撫で下ろした。 自らの蓄積と信用、様々な方面から掻き集めたリソースに加えて酷使しすぎたコネクションはあからさまな疲弊度合いを見せておりこれ以上搾り出せるものが無い状態だ。 そして今回我が主人に用意した器は神代の神格をも顕現できる程の麗しい姫君だった。 自分達にとっても替えの効かない切り札のひとつを差し出さなければならなかったのはさすがに受容し難いものであったが今回の千載一遇の好機を前に選択肢はなかった。しょうがなかったのだ。 男は自分が支払った代償の重さを直視できず、誰に聞かせるでもない言い訳を脳裏に紡ぎ続ける。 ひとしきり我が身の苦労を噛み締めた男はいよいよ我が主人に対して叶えていただく願いを奏上しようと目の前の見目麗しい少女の瞳を覗きこむ。 天然の氷室を思わせる純潔にして怜悧なその眼差しは正に男が望んだ希望の象徴に違いなかった筈だった。 そしてその瞳に魅入られた自分がどのような宿命を授かるかは問題ではなかったのだ。 「それで問題の彼は生きながら
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー普遍の災禍と不変の罪科ー
あの草案が選ばれなかったのならこちら側で決めれば良いこと。 あまりに簡潔な協定破棄の判断はあまりにも乾いた音をもって伝わった。 ”姫君”の見ている世界はどれだけ自分の都合のいい摂理を持って動いているのか?「眠り姫」殿下のような才覚と展望を見習ってもらいたい。 空気に印字でもされそうなほど皆の考えが色濃くこの場に滲み出ていた。 様々な「現実」を踏み荒らして我が道を創ってきた我が主に対して”家臣”達の許容度は限界を遥かに超えてきている。 いかに「真理の門」の統括者のひとりである”姫君”でもこれ以上この世の摂理を捻じ曲げては誰一人ついてはいけまい。 天界の論理では常世の人間が生きていける道理が無い。 そして彼女は言い出すのだろう。 ”私が思うところを実現できる者を連れてこい”、だ。 それが察知できた者達はそもそももうこの場にいてくれないし察知できなかった者たちに”姫君”の望むものは用意できまい。 その結論を説いて差し上げようとした宰相閣下はつい先日魔力炉の露となったばかりだ。 それでも時計の針は進むもの…流石に行き詰ったことを悟った”姫君”は人に頼ると
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー誠実な欺瞞と初恋の憧憬ー
そもそも何の為に「世界」が生み出されるか知っているかな? そう、「秩序」が生まれる土台になるため。 そして「良識」が稼働できる基盤を整えるため。 さらには「希望」が具現化される地盤を用意するためだ。 最近はそこのところを履き違える者があまりにも多くて困ったものだよ。 ”彼”は自らの信望者に向けての「アドバイス」を一通り終えた後、壇上に用意してあった水を一口飲んで一息つく。それは今講義した内容について聴衆が感嘆を自らの胸の内に飲み込むための猶予を与えているのだ…どれほど自分たちが崇高で実用的なことを聞いたのかを噛みしめる時間を持たせるためでもある。 そしてその状況を観測し終わると”彼”は再び講義を再開していく。 事前に配布された案内書の目次は聴衆の意識を奈落の底に運ぶ黙示録のごとき濃密さでそれぞれの思考力を絡めとっている。 会場のボルテージは奇声や歓声が響かないのが不思議なくらいの熱量を孕んでいて、熱望の視線は更なる言葉を求める意思表示がされていた。 その視線を真っ向から受け止めて満足げな表情を聴衆へ向けた”彼”は神託でも告げるかのごとき陶酔加減で
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー親友の咎と喪失の戯曲ー
他ならぬ君だからこその頼み事だ。勿論引き受けてくれるね? 私は当然のように投げられた言葉を認識できずにいる…その一言が何を意味するかを知覚できていながらだ。 今まで数々の便宜を図り様々な融通を利かせてくれた「恩人」の表情からいつもの慈愛に溢れた笑顔は消え、疑念と算段が透けて見えるような俗世にまみれた感情がその顔を満たしている。 これまで見せていた崇高な理念や高尚な価値観は結局のところ哀れな生贄の下ごしらえの為でしかなかったのだろうか? 最早調理間際の食材を品定めするかのような絡みつくその視線はどれほどの美味をこれから得られるかということにしか興味がなさそうだ。 しかしこちらとしてもようやく授かった独自世界と固有術式を手放すつもりも自我と「拾得物」を捧げる気も毛頭無い。当然のことだ。 だが問題は「恩人」たる”彼”の人的コネクションと固有魔術回路無くしては我々の生存ルートは確保できないということ。 そう読んで字のごとく生殺与奪が握られている以上、”彼”にとって我々は家畜や奴隷程度の価値しかないのは確かだろう。 では絶望を受け入れて”食用加工”されるの
ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー不遜な現状と傲慢な事実ー
そう、夢を見せてもらいたいのだ…”理想的な日常が現実に勝つ”というファンタジックな夢を。 それがそんなに難しいことかね? 彼はその後も身勝手な偶像論を朗々とした声で唱えていく。 聴衆はその意味を理解していないながらもその言葉を反芻し、大事なものとして脳裏に刻んでいく。 それがただひとつの真理であると無心に信じてひとりひとりが自らの行動規範として彼の理念を受容していくのだ。 そしていつしか公演テーマは具体的な”理想の具現化論”に移行していき、高まった会場の熱気は冷静な目で見ていたはずの”外部”の面々の理性すら溶かし切っている。 いつしか呪術めいた言葉組みの言霊は自我の無意味さを重点的に説いていく。 「皆でこの理想を成就させるために滅私の心で奉仕するべき」との結論が登壇者の口から紡がれたときこの場のボルテージは最高潮に達し、怒涛のごとき拍手が万雷のごとく鳴り響いた。 皆の辞書の”現実”と”正義”の意味を自らの望む語彙に塗りつぶした登壇者は満たされた自尊心に満足し、恍惚の笑みを示した…紡がれた宿命の因果が無事稼働し始めた日のことだった。...
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