ギャラクシー"ジェネシス・コード"ー迷走する偶像と困惑する理想像ー
- 5 日前
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此度の器は馴染みが良いな…褒めて遣わすぞ。
寒々しい拝殿に響いたその声を恭しく賜った男はひとまず胸を撫で下ろした。
自らの蓄積と信用、様々な方面から掻き集めたリソースに加えて酷使しすぎたコネクションはあからさまな疲弊度合いを見せておりこれ以上搾り出せるものが無い状態だ。
そして今回我が主人に用意した器は神代の神格をも顕現できる程の麗しい姫君だった。
自分達にとっても替えの効かない切り札のひとつを差し出さなければならなかったのはさすがに受容し難いものであったが今回の千載一遇の好機を前に選択肢はなかった。しょうがなかったのだ。
男は自分が支払った代償の重さを直視できず、誰に聞かせるでもない言い訳を脳裏に紡ぎ続ける。
ひとしきり我が身の苦労を噛み締めた男はいよいよ我が主人に対して叶えていただく願いを奏上しようと目の前の見目麗しい少女の瞳を覗きこむ。
天然の氷室を思わせる純潔にして怜悧なその眼差しは正に男が望んだ希望の象徴に違いなかった筈だった。
そしてその瞳に魅入られた自分がどのような宿命を授かるかは問題ではなかったのだ。
「それで問題の彼は生きながらにして魔力供給装置の一部に成り果てた、と。理想の為の人柱のひとりになれて本懐だったのかしら?」
「えーっとそれは…」
自分の見解を求められているわけでは無い事だけは確かな新名の言葉を咀嚼できず、愛花は言葉を詰まらせる。返答を期待してはいないのだろうが、何気なく会話を流せば碌な事にはならない。
数少ない場数から得た僅かばかりの経験則がこの場の命綱。
とりあえずでなあなあの応答は言葉通りの命取りとなるだろう。
そして必要で必須な情報は自分で引き出さなくてはならない。
あまりに不親切で理不尽な難易度設定にも泣き言は言えないのはもう慣れてきたぞ頑張れ私。
愛花は孤軍奮闘な現状を必死に受け止め、もたらされた情報の確認から進めることにする。
「それで次代の"月光妃"が現世に顕現したというのが私達の日常にどんな影響を与えるというんですか?そこらへんは呪術界の中でも特に隠された領域の話ですよね?」
「そうね…今わかっているのは日本及びアジア圏の"現実"の在り様が組み変わるだろうということ。その拠点が"ムーンライズバレー"と呼ばれている場所である事ぐらいよ。」
淡々と情報の羅列をする新名に対して愛花はもどかしさを抑えられなくなるが、ここはぐっと堪えて話の先を促すことにした。
愛花のその様子を現状把握が済んだと見た新名は続けて任務の通達に移る。
「今回はこの情報の裏付けを取る為に"機運の運び手"という人物とのコンタクトに望む事。そしてその信用度を見極めること。ここまでで何か質問はある?」
また新たな固有名詞が出てきたな…愛花は辟易した感情を押し留めて今何を確認するべきかを考え始めた。
まずそういった領域の人物の品定めは斎木さんに任せよう。それでは私が成すべきことは?
愛花はこれからの因果を決めるだろう選択肢を選定し始める。
その思考ベクトルがさらなる危機の呼水となり得る事を自覚しないままに。

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