ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー真価への疑問と進化の軌跡ー
- 5 日前
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意思の込められた言霊が現実を呼び寄せる…それだけは事実よ。
対峙している私の感情を激しく揺さぶった彼女の眼光。
それは怜悧でありながら灼熱のごとき激しさを持ってこの場の空気を染め上げた。
あまりにも凍りついた現状に対して誰もが希望を持つこと自体を非現実的だと認めていた。
長きに渡る塩漬けな環境に置かれたことには必然があり、これから先も変わりえる要因は出てこないというのが今でも現実的な判断とされている。それはコミュニティ内での不文律になっていて不可侵の聖域ですらあった…昔のきらびやかな思い出に浸るためだけの記念碑であり美談としての鑑賞物。
そういまさらそれを実用化しようなど冗談のネタにすらならない。
当時の愛すべき日常のダイアグラムとしての機能さえ維持してあればいい。
コミュニティの創設メンバーですら今やその認識を黙認していた。
そのまどろみの停滞を協議の上ですり合わせる為だけに開かれたこの場で放たれた彼女の言葉はさぞ異質な波紋をこの場の面々の心に生んだだろう…理想像を現実に具現化するという困難を、それがもたらす挫折と無力感を誰もが魂に刻まれている。
それだけにこの場のコミュニティ創設メンバーは彼女の真意を測りかねる。
なぜなら彼女のヴィジョン構築の根本はコミュニティメンバーの魂の傷を埋めるための機能を現状に具現化させることを第一義としていたからだ。
皆の猜疑心とわずかに燻っていた不信感が鎌首をもたげたその時、彼女は蛇のあしらわれた徽章を取り出して議場の中心へ躍り出た。
煌々とした蒼い光が彼女の右手から溢れ出して議場の唯一の光源となる。
それは新たなる「現実」の定義が成される最初の軌跡であった。
「…それでこの神学科初等部の教科書で二次創作したようなこの報告はどの程度事実なの?」
「もちろんありのまま100パーセントの事実よ。デバイスによる録画も見れるけど確認してみる?」
真と新名は正に喧嘩上等といった空気を撒き散らしてお互いの真意を図ろうとしていた。
そもそも会話やまともな意思疎通を行う気は双方さらさらない。対峙している相手はお互いの日常の平穏を揺るがしかねない不穏要素の筆頭である…相手を単体の一個人であるという認識も無いであろう。
それだけに意味不明なこの情報を今扱う意義と意味について確認しておきたいのは双方同じだ。
「そもそも藤御堂家側から貴女が寄越されたという時点できな臭いことこの上ないのよね。事象改変を扱う能力者でないとどうにかできない事案なら他にあたってくれないかしら。わざわざこの斎木の私邸で話す必然は何も無いはずよ?」
新名はあからさまに”お引取りください”という語彙を引き伸ばして突きつける。
最初からノータッチで通そうという意志を丁寧に伝えたつもりであったが、煽りとしての言葉がやや先行しているのはそれが本音だという何よりの証拠だ。
しかし真はそれを重々承知でありながら押しかけてきているのでいまさらの拒絶など意に介さない。
むしろ腹の探りあいの手間が省けて都合が良くもある。
だが”楽しいおしゃべり”をこれ以上しているとつまみだされかねないので用件を始めないと帰ってから怒られてしまうな。
真は渋々ではあるが与えられてきた仕事を始めることにする。
「それがだね…新名ちゃんにわざわざ頼みたいことがあるのはこの”アスクレピオス”の件なんだけど、報告は受けてる?」
唐突に馴れ馴れしい言葉で絡まれて眉を寄せた新名ではあったが、聞き流せない単語をキャッチしてしまい対応せざるを得ない空気を悟った。
…”アスクレピオス”?確かイレイザーと交わった2世3世がこの地球上で構成している軍事コミュニティだったか。小耳に挟んだ事はあったが私の管轄では無いな。
新名は訝しげな目で真に目を向けるとやたら不自然な目線が返ってきた。
「その様子はまだ聞いていないみたいだね?これはここだけの話なんだけど」
真はいかにも言いふらしてねという楽しげな様子で話し始めた。
イレイザーと交わっていった人々のこと、その歴史と歩んでいった史実とその運命。
そしてその人々の象徴である蛇の徽章。
それらを聞き終わって、新名は自らにこれからまとわりつくであろう因果を想像してげんなりすることになった。

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