ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー親友の咎と喪失の戯曲ー
- 5 日前
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他ならぬ君だからこその頼み事だ。勿論引き受けてくれるね?
私は当然のように投げられた言葉を認識できずにいる…その一言が何を意味するかを知覚できていながらだ。
今まで数々の便宜を図り様々な融通を利かせてくれた「恩人」の表情からいつもの慈愛に溢れた笑顔は消え、疑念と算段が透けて見えるような俗世にまみれた感情がその顔を満たしている。
これまで見せていた崇高な理念や高尚な価値観は結局のところ哀れな生贄の下ごしらえの為でしかなかったのだろうか?
最早調理間際の食材を品定めするかのような絡みつくその視線はどれほどの美味をこれから得られるかということにしか興味がなさそうだ。
しかしこちらとしてもようやく授かった独自世界と固有術式を手放すつもりも自我と「拾得物」を捧げる気も毛頭無い。当然のことだ。
だが問題は「恩人」たる”彼”の人的コネクションと固有魔術回路無くしては我々の生存ルートは確保できないということ。
そう読んで字のごとく生殺与奪が握られている以上、”彼”にとって我々は家畜や奴隷程度の価値しかないのは確かだろう。
では絶望を受け入れて”食用加工”されるのを待つしかないのか?
否。断じて否だ…そのような宿命に従うだけのためにこれまで代償を払ってきたわけでは無い。
未だに自分の描いた台本に酔いしれる”彼”の嗜虐的視線に対抗するため私はこの場の同志たちへアイコンタクトを試みる。
…その時皆の相貌に映っていたものはかつて憧れ続けたこれからの未来では無かった。
「そう、その企てがあの哀れな小鳥を”幸せな青い鳥”に仕立てるということなのでしょう。それがどれほどの冒涜に値するか考えたのかしら?」
「ハハッそれは飛んだご挨拶だなミスティ。いや、”鏡の国の眠り姫”フローラル殿下…貴女ともあろうお方がそのような解釈をされるのはあまりにも残念なことだ。」
ミステルの咎める視線を軽いジョークのように受け流した信長は肩をすくめておどけた表情を崩さなかった。
「この前の議場に異世界の異能者が紛れていたこと、その観測結果があちら側に渡ってしまったこと。それを手引きしたのには貴女なりの事情があったのでしょう…そこは共有していただけるわね?信長。」
形ばかりの共感と”情状酌量”を見せて牽制するミステルではあったが、目の前の稀代の曲者が素直に腹を割るはずもない事は分かり切ったことだ。
では何故無駄と割り切ってまで「対話」のボールを投げたのか?…無論自らの異能である”予知と予見の鏡”にさらして情報を絡めとる算段に変わりない。
全知並みの情報量を得られる”鏡”ではあるが、英霊並みの神格を持つ者の情報を得ようとなると意識の隙をつく必要がある。
それでなくても今の対象はひとつの時代を築き上げた別格の存在。並みの霊的効力ではひと睨みで看破されることも当然だ。
信長の相貌に魅入られぬようミステルも意思の練度を高めて視線を突き刺す。
その意思の純粋さを受け止め、信長はやれやれといった風に魔力防壁を解いて親し気な気配をミステルに向けた。
この場の空気が緩和したかに思えた次の瞬間、「現実」の意味があまりにも軽く吹き飛んでいった。

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