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ギャラクシー”アナザーデイズ”ー要望と希望によるタップダンスー
今回の事案は「イマジン・ロスト」か…想定していたよりだいぶ早かったな。 ん、説明がまだだったか。しかしこれは機密情報の中でもかなり危険度が高い分類に該当するものだから話すかどうかは本来上の判断に任せる事になる…しかしお前も暗部実務に慣れてきたところだ。これくらいは話しておくべきかもしれんな。 おいおい…そう怪訝な顔をするものでは無い。 これからはこういったトップシークレット関連の事にも携わらなければならないのだぞ。 この「情報提供」をその身に刻み、これからも存分に役に立ってくれたまえ。 まず周辺のファクター整理から話を始めよう…お前の理性が受け止められられるところまで、な? 「それでめでたくその彼は鉄砲玉として二階級特進して英雄となったと…定番のネタでひねりが無く作り話としては三流以下だな。やり直しを命じよう。」 「いや…それが証言者付きの実話なのです。そしてその話をした当該の上司も僻地行き特攻便でどこぞに飛ばされたのですが。それで、少しはまともに話を聞く気はありませんか弦巻一尉?」 優樹は向けられた棘のある言葉もどこ吹く風で頼んでおいたケーキセ
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー祈りと祝福による花園ー
白金の蓮の花の紋章を掲げる非営利法人、通称「プラチナ・クラウン・ロータス」。 正式名称「真理統合学会」…仰々しい名前のこの団体は「現世での”現実的”な救済方法の探求」を求める世界規模の団体として認知されている。 そしてEGO上層部にも熱烈な後援コミュニティがあることから支持層のネットワークは世界各地に広まっていると見て間違い無いだろう。 元は量子力学のパイオニアであった一人の研究者が「「人の願う力」がこの世界にどれほどの影響を及ぼせるのか」という実験の一環として作ったサークルから生まれたという説が一般的だ。 しかし実際には創立者である彼の熱狂的な持論を持ちうる事により”真実”に至ろうとするメンバーが彼の持論を教義化してコミュニティを肥大化させていったのは事実と認めざるを得ないところだ。 人々の理想と願望を取り込み続けて量子力学の範疇に収まらない影響力を持ったその「教義」は今もこの世の不都合を全て喰らいつくそうとしているかのごとく増殖し、その力を増大させ続ける。 そう、救済という言葉の意義さえ塗りつぶそうとする勢いで。 「…それで、茜さんが「観月会
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー畏敬と恩恵による祭典ー
その程度の事ならばキャスティングとマッチングでどうとでもなる…君は君の役目をきちんと果たしたまえ。 唖然とする部下に一瞥をくれると彼女は眼下の景色を眺めて溜息をつく。 これほどの景色を眺められるようになるまでどれほどのものを犠牲にしてきたのかわからない。 信用と信頼も数え切れぬほど世の業火の中にくべてきた。 ここでつまづくなど今まで捧げられてきた献身への重大な背信行為である。 …そう、幾度となく教義や社是を決めて来たこの身にもそれは変わらない。どれほどの独裁者でも心の芯を支えるものは人の思いに違いない。 そしてこれからどんな扉が私を試そうとも正面から相対してみせよう。 かつて無上の信頼を預けてくれた同志達がそう願ってくれたように。 「島津様…島津有紀様。お連れの方が西棟クラブラウンジにてお待ちです。いらっしゃいましたらお近くのコンシェルジュカウンターまでお越しください。」 …30分ほど前から何度もアナウンスされている内容を聞き流しながら有紀はお土産店を眺めていた。 ご当地お菓子とかはありきたりすぎるし香水とか買っていってもしょうがないよね。彼女の
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー幻惑と困惑によるエスコートー
殉教者への救いは神や王からもたらされるものでは無いと私は考えている。 壇上の彼が切り出した言葉に式場の誰もがどよめいた…この場は先進技術の展示や論議が成されるものだというのは暗黙の了解以前の事だからだ。 確かに度を越したオーバーテクノロジーは魔法のごとく見えるのは仕方ないことだし、その根幹が神話の概念を元に組み上げられることもある。しかし彼が伝えたい事は明らかに違うようだ。 今にも「この世に救済など無い」系の自己啓発論が始まりそうな空気が流れてSP達が壇上に詰め寄りかけたその時、式場全体に得体の知れない重圧が圧し掛かった…周囲にまとわりつく空気が重金属のごとき比重で覆いかぶさり各所で肉や骨の軋む音や砕ける音が響く。 そして壇上の彼はその様子を愉快そうに見下ろすと得意気に指を鳴らした。 …彼自らの取り込んだ「秩序」を開放する為の儀式場が完成した瞬間の事だった。 「それで何が起こったかと言えば”よくわからない”…?それは答えになってないよね。何の為にあなたたちが現地にいたのかなー?」 「お言葉ですがフォーマルハウト二尉…私達もお答えできることは頭で理
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー不遜と不敬による祝福ー
「今、言いましたか?”連理と連環の契り”によってこの戦局を乗り切る、と?」 「えぇ。間違いなく申し上げました…あの神代呪法により我々の道は開けるでしょう。」 頭痛が治まらない。目の前にいるこの件の担当者は自らの言葉に陶酔し、賞賛と受諾の言葉を真面目に受け取るつもりのようだ。 本気で”神様”そのものに問題を解決してもらおうというのだろうか?支払うべき対価も考慮せずに? およそ想像していなかった提案に思考がまとまらない。これまでの議論は何の為に行われてきたのかわかったものでは無い。 そもそもあの禁呪は自らの存在を神話に織り込み同化することで神域を顕現させるもの。 元々人間の欲求や都合など考慮してくれる場ではないのだ…無論どこぞの経典に書かれている「都合の良い救済」など得られる筈もない。 そしてその身を捧げる資格がある者は神話の主神格を受け入れられる程の器に限られる…そこまでしても望みを叶えてもらえる保証も勿論無いしそれほどの対価を支払えるはずも無い。 わざわざそのへんの基礎から講義しなおさなければならないような人間を呼んだつもりは無かったのだが、この
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー予定調和な奇跡の軌跡ー
「そう、それらが”デビルズ・パラノイア”のひとつか…件の”パージ”も一緒って事ね?」 「ええ、ほぼ間違いない筈…かのソロモン王が従えた魔王達の持ちえた権能が具現化した領域型の魔術…いかなる聖別や祝福を受けた魔導器もその概念ごと崩す事ができるといういわくつきのもの。もちろんそれなりの格を持ちえる魔術師や高位の神官、そう最低でも枢機卿クラスの器を必要とするらしいわ。」 着々と進む機密の共有にも関わらず不穏な空気は存在しない…この場の誰もが一人でその機密を抱え込む事が我が身の破滅を決定付けることをわかっているからだろう。 しかし混ざり合う事でよりその脅威度が増すことに誰もが言及しない…それはわかってもどうしようもない事。誰も一人で破滅の因子を背負おうとしないのは自明だからだ。議論の余地は最初からない。 こうしてその夜話し合われた「極秘会談」は当然議事録に残ることは無く幕を閉じた。 無論、誰がこの世の調和を任されるか等という不遜極まりない今回の議題はまとまる事は無かった。 「うん、神様って言ってもいろいろな分類にわけられるのよ。例えば信仰心や自然への恐怖
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー希望と願望、相対する相貌ー
時には新たな希望を芽吹かせ、時にはどす黒い欲望を孕むその演劇の舞台。 その歴史の始まりを告げる胎動の兆候は本当に些細な日常の変化であるに違いない。 新しい出会いと試みはいつでも外に出る機会を待っている…そして「シナリオライター」の手と思惑によって生み出されるそれらの因果の欠片が組み合わさって想定外の事が起きるのは決して不思議なことではない。 そう、奇跡の母体はいつでも日頃の日常を元に日々を営んでいるのだから。 「はーい!それでは聞いてください!私達マミ&エミのニューナンバー、ハートビート☆イグニッション!」 その声に呼応するように画面の中にわあっと歓声が上がり、ノリのいいイントロが流れ始めた。 彼女専用のクラブフロアの一室でわざわざつけてある地上波の音楽番組の熱量とは正反対な室内の寒気は人が耐えうる温度を振り切っているように思えてならない。 それでも彼女は呼びつけた今回の事案の担当者に冷え切った言葉で説明を求めていた。 「改訂プランC、”パージ・オブ・オルタナティブ”?…この意図の伝わらない文章で納得しろというのは貴方方の言葉遊びで違い無いのよね
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー尊厳の輪郭、生存権のカタチー
闇夜より黒い願望も等しく許容してくれる夏の帳…それがこの時期の風物詩になった時の事は誰も覚えていないだろう。 何よりその存在自体が魔術的な要素なのか自然のもたらす神秘なのかも定かでは無い。 それでも生まれた時からあるその環境はどんな形であれ「自然なもの」として受け入れられるが道理。 そして人々は契約の対価として何が捧げられたのかなど知る必要もない。 平和維持の為の代償が真っ当であった事など無いのだから。 「…それで、この件についてはどういう説明で場を治めるつもりでありますか篠崎一尉?」 「うーん、そうだね。”事態は現地で聖域とされている地域で起こったことですので、守秘義務によりお答えできません”、かな?」 今日香は煽られた事を歯牙にもかけず堂々としらを切って見せた。相手は暗部業務を遂行する手練れだと承知の上である…直接的戦闘になればたやすく組み伏せられる事は明らかだが、目の前で敵意を増幅させている少女はそれを選ばないだろうという確信があった。 彼女はいつでも合理的理解の元に動き、理性的な判断によって行動する。自分の異能に踊らされることはチーム全員
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー未知の常識、未開の不文律ー
今使えるリソースが万全なものでない以上、手札の数だけの可能性などまやかし…分別ある判断をおねがいしますよ殿下。 なんとか「魔女の夜」を抜けて一息ついたところに浴びせられたその一言。 それに対して何の感情も無いまま応対できたのは我ながら出来すぎだと思った…人としての部分が抜けきれないこの身と心にも変化が顕著になっているのだろうか? それで無くともかつての因果の大改編により様々な境界は崩れてきている。 神域に至ったものはその地を無遠慮に踏み荒らし、異能を得た者達は自らの日常を思うがままに改変していた。 その過程で様々なコミュニティの旗が翻るようになったかの「公用地」に共通規定が定まるにはまだ長い時間と様々な試行が必要であるだろう。歴史の始まりが描かれるのはその先の事だ。 彼はそこまでを振り返ると自らがまとめた議定書を握りしめて新天地に足を踏み入れた…人の理が未だ到達していない未開の聖域へ。 「それでそこまで行ったのに何も得られずにすごすごと帰ってきたの…?しょうがないなあ。」 「いくら神域の異能へ手が届いた英雄でも人の子って事だよ。そういう若葉にも思
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー思いの果て、願望の到達点ー
それで、思い描いた特別というのはどういう感じになったの? 渡したシナリオをさらっと流し読みした彼女の感想はそれだけに留まった。 精一杯詰め込まれた夢も数々の具現化策もその琴線に響くものでは無かったようだ。 それでもこれほど反応が薄いのは想定外だったぞ…それこそ神界でのラブロマンスとか超展開パラダイムシフトとかのほうがお気に召したのだろうか? しかし「聖典」の記述は基本的に自らが歩んできたもので紡ぐのが縛りである。 そういかに万能の器でも思い描けないものは具現化できないのが理屈であるからだ。 だがこのままでは歴史の始まりが組み立てられないぞ…いっそ方舟が必要な程の大規模リセットからやり直してみるか? 度重なるリテイクで心が折れかかった設計者の些細な気まぐれによって迷走中の世界の器は何度目かわからない存亡の危機を迎える事となった。 「…というのが今回の今回の解析するべきところなんだけど。こら!そこ露骨に嫌な顔をしない!」 「しょうがないじゃん御手洗ちゃん。この人、いや人じゃないか。この神様だがなんだか知らないけど無力すぎない?読んでて気分が重くなるの
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー自我認知領域の存在理由ー
これ以上のプレゼンは不要でしょう。当初の契約通りの合理的判断をお待ちしておりますよ…マドモアゼル。 最後まで道化の仮面を張り付けたままで彼はそれだけを言い残し、この場を去った。 豪奢なディナーの余韻も冷めやらぬこのタイミングで意識を溶かすような甘さのその文言。 それはこれからの未来の選択権を放棄するようにと告げられた事実上の降伏勧告に違いなかった。 未だにひとときの甘い逢瀬の毒が抜けないこの場で聞くにはあまりにも辛いものである。 しかしそうである事を認めたくない心中の動揺はごまかしきれないもの…だがこれまで以上に献身を続ければ望む未来が迎えてくれるとは思えない。 どれほどの希望的観測をもってしてもそれは揺るがない現実だろう。 それでも彼は自我の根本である”聖典”の最後の鍵を手放せと要求してきた。 それはこの領地の管轄権や魔術的命脈だけでなくこの命そのものを差し出せという事に他ならない。 そしてそれが何を意味するかは自明のこと…もはやパートナーとしては勿論従僕に対する命令ですらない死刑宣告だ。 無論夢のようなひとときがいつまでも続くことは無いと自戒
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー理想的実像、客観的偶像ー
初雪でざわめく雑踏の中、一際目を引いた緋色のルージュ。 初めて見る彼女のさりげないおしゃれを素直に褒めておけばよかったと心底悔やまれた。 そしてその日に刻まれた幸せな記憶の数々はこれからの日常の糧となり、未来への希望となる事は違いなかった… 二度と戻らない刹那の永遠を日々慈しむことは、穏やかな日々の平和を享受している証なのだから。 「ふむ…”ラヴァーズアゲイン、出逢った頃のように”か。ちょっと少女趣味が過ぎるかな?」 「ほたるちゃん、貴女がそれを言うとは相当ね。」 机の上に投げ出された資料には”烏杜零の新境地!降り積もる新雪の中で少女のような初恋を”とのフレーズが踊っていた。 なかなかにベタな…いや直球な幻想の在り方は零の心を大分騒がせていた。 そしてこの「イメージ戦略」にはEGO上層部も一枚噛んでいるため、逃げ道は無く拒否権も存在しない。 ほとほと困りかけた彼女は何とか求められているセルフイメージを掴もうとこの企画のヒロイン像を模索していたところ、そういう方面作品のヘビーなファンであるほたるに話を持ち込んだところからこの状況は始まっていた。..
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー自然からの恩恵、人の輪の成す神器ー
それで今までの懸念を解消できる新たな枠組みとやらはどれほど形になったのだ?私への説明責任を果たせ…純一郎。 それはあくまでも厳かでありながら聞く者の自我を無遠慮に縛り上げる言霊。 対峙する者の心と魂を赤子のごとく退行させるに十分な禍々しさを持ってこの場に響き渡った。 政界のご意見番として一目置かれる彼ですら例外ではなくその意識を侵食されている。 しかし彼もまた政治の世界という伏魔殿の中で永らく生きながらえてきた傑物に違いない…この謁見の場こそが自らの次なるステージへの第一歩として意気を上げて踏み込んだ筈であった。 だがこの場を支配する呪縛の檻の中、彼が紡げる言葉はかなり限定的なフレーズだけである。 何ヶ月もの時間を割いて練りこんできた脚本はこの場に足を踏み入れた刹那で吹き飛んだ…実際に自分が口にしていいことは決められている。そう木偶のごとき今の役割にもセリフはあった。 その屈辱に耐えながらも彼は自分に許可された言葉を紡ぎ出し始めた…そこにせめてもの自らの矜持を込めて。 …その様子をねぶるように鑑賞していた彼の「雇い主」は可愛い子飼いのさえずる様子
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー普遍化する危機と呪縛ー
…ふむ、この「漆黒の堕天使」とは何を意図しているのかな? いやわかっているよ。天界からの侵攻や天使としか表現できない姿の個体の報告が連日上がっていることは私も確認している。 それだけに秘匿回線から送られたこの「報告書」の中身とその記述が気になるのだ。 わざわざ抽象的表現で何を伝えようとしたのか、この表現でなければならない理由があったのか。 それとも聖典の心象世界になぞらえてしか受け止められない壮絶な事が起きたのかはわからないが、この返信が前線に届いたならば対象についてのより詳細な観測事例を送ってきてほしい。 最前線で戦っている同志達の健闘を祈っている…御使いとの戦いを強いられている貴兄らにも主の加護がありますように。 「それでこの通信記録について今日香ちゃん、いや篠崎一尉はどう判断するべきだと思う?」 「そうですね…この「堕天使」というのがイレイザーの特異個体を指すのか、それとも異常状態を示すのかわからない現状では私の能力でも予測しかねますね。しかし文月さんはもう進藤家のパイプを使ってこの件を探っていたのでは?」 今日香は文月のノーリスク答え合わ
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー郷愁と邂逅の事前準備ー
…あのときの口説き文句は本当にひどいものでしたね? 通話口でのその言葉はだいぶ自尊心を挫くものであった。わりと気張ってキメたつもりで大失敗。 一昔前ならチェーン展開の居酒屋で「女なんてよぉわからねぇもんなんだよ」みたいな定番ルーチンを通過すればスッキリできたものだが、今の時代どこで関係者が聞いているかどんな形で情報がネットワーク上に上げられるかわかったものではない。 あまりにも肩身が狭いと感じてしまう世の中になった…かつての上司達は仕事さえ捌ければどんな人格や性癖も全肯定されていた気がする。その背中を見て昔ながらの「成功像」を夢見られた時代は遥か彼方に過ぎ去ってしまったのだ… そこまで秘匿フォルダに書き連ねてから彼は一気にその文章を削除した。 目の前にぶら下がる破滅フラグはいつでも傷ついた心を癒してくれるものだが、その代償は積み上げた過去を失うだけに留まらない。 それは未来の可能性や周囲の人間の希望と展望も焼き尽くしてしまう紅蓮の炎である。今はそれを回避できる目算も受け止められる打算も無い…それは運命の女神の胸先三寸で決まってしまう事に変わりない
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー認識の枷、意識の檻ー
どんな傑物でも戦う世界が無ければ英雄にはなれない。 どれほど優れた主人公でも環境の許容が無いままでは生きていけない。 …だからその為の枠組みが必要であり私はその礎となりたいと思う。 そう締めの言葉が客席に伝わったとき、うおぉー!という地鳴りのごとき歓声が上がり、壇上の彼はその熱気を受けて満足気に微笑んだ。 この場の空気は聴衆の魂と意思をとっくに焦がしており、収拾がつかない状態であるのは明らかだ。 これは想像の遥か上をいく事態になっているな…単身乗り込んだのはリスクが過ぎたかもしれない。 それにわざわざ最前列の席を取るんではなかった。始まって数分で客席の暖気運転が済んでいるから怪しんでいたが、この場は確かにGRN社…知的遺産統制機構だったかの構成員が詰め掛けているようだ。 少しでも脇が甘ければ秘匿情報の尻尾のひとつでも掴めるかと思ったがやはり現実はそう甘くは無かった。 …今の世の中虎の穴に馬鹿正直に虎の子を隠しておくわけはないか。 私はこの場に見切りをつけて退散しようとしてようやく周囲の違和感に気づいた。 周囲の人間が全員不自然なほどの慈母のごとき
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー原初の追憶、未来の記憶ー
それが元々想定されていた未来であった、と…? 彼が搾り出すように紡いだその言葉は疑問系ではあったが、答えを問うものでない事は明らかだった。 その相貌には絶望や失望だけでは無い色がない交ぜとなっていてその胸中を推し量ることはできない。 見るべき夢の提案から開拓地の選定に始まった未来への道筋。 それは度重なる不都合によって現実性がほぼ失われている…それでもこれまで以上の献身と投資を強いるのは酷だと誰もが感じていた。しかし進み続けた先の成就を諦めることなど到底できない。 かつて焦がれた景色の再現だけが唯一の救いとなった今でも。 「…彼女の”聖域指定”の異能を持ってすればまだ状況維持ができる目算が立つ。そういう理解でいいわけね?」 「そうですね…愛耶、いや蒲田さんの形成できる「範囲結界」は包んだ内部を「主の守護が支配する聖地」として定義することで深層意識レベルで制約を守らせる力です。確かに今の事態を対処するには適任と思いますが、不穏分子を押さえつける事まで織り込むのはさすがにリスクが高すぎると考えますが?」 千里は慎重すぎるほどの言葉選びで遊名の問いに応
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー炎の原理、氷の摂理ー
「対処されるのが織り込み済みだからこそ各方のシナリオ構築のやり方が見ていて面白い。そうは思わぬか?」 「ははッ…同感ですな。おっとこれでチェックです。」 コッと静かな音を立ててナイトの駒が十数手先のチェックメイトを告げた。 唐突な降伏勧告に目を丸くした老人は改めて盤上の戦況を俯瞰してみるが、当然のごとく逃げ場は無い。 見事にしてやられたのだ。 その様子を見て若者は溜飲を下げて敗軍の将のコメントをじっくり待った…そして存外なほど早く望んだ言葉は放たれる。 「うむ、一本取られたようだな。望みどおり貴君に件の案件の指揮を任せるとしよう。 実際に現場を任せているシルヴァへもこちらから言伝てておく…それで良いな?」 その言葉を伝えたことで老人はあくまで上からのスタンスを崩す事無くわが身の権利を譲ることを承認した。しかし若者は不服そうな態度を露にして主張を始める…得られて当然と感じていた権利が付属していないとの不満はかなり胸のうちを焼いていたようで、不躾な言葉はすぐさま溢れ出していた。 「殿下…僭越ではありますが、世界のアルカナの力を受け継いだとはいえそのレ
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー反響する幻惑、事実の在り処ー
…都市伝説というのはね、実態があることが大事では無いんだ。 突如行きつけのバーに呼び出された私が最初の一杯を考える前、彼は勝手に語り始める。 まあ自己啓発系導入でないでないだけマシだと思うのはまだ早い。 「聞いたからにはお前も関係者だ逃げられないぞ」というフラグが匂うこの場で安易に相槌を打つのは自滅行為となる場合が多いのだが、恩義も少なからずある彼の話を聞く前からつっぱねるのも不義理ではあるか?判断の天秤はどうやらそちらに傾いた。 私はそう考え、一瞬の逡巡の後で話の先を促す事にした…後に理性的判断というのを心底後悔する1シーンが目の前で始まっていったのは言うまでも無いことだった。 「それで藤宮の家はこれからどうするって?」 「まだ意思決定ができる状態では無いとの事だけど…そちらのお得意様はどうするかって聞ける状況?」 神奈子は自分の内輪の情報を打ち明けるかどうかの判断を迷っていた。新倉のネットワークと導知評議会とのパイプを持つ麻衣に渡すならばどう転んでも痛くは無いのだが、それでもわずかなイレギュラーで用意してあるセッティングに歪みが生じるような事
ギャラクシー”アナザーデイズ”ー幻影の城、事実の帳ー
夢と幻想は願望の種…現実という土壌に根付き理想という花を育てる。 それはある種の魔導書に共通するテーマのひとつらしい。 その発想から成された領域には時間による必衰の理は通用せず、理外の存在も当たり前のように日常を送っているのだ。 それゆえなのかそこへ踏み込んだ者は例外なくその領域の住人となり、再び現実へ戻る事はできない様である…領域の境で実際に目の前でデータの塊となって霧散した友人を見てしまった者はそれ以来意識を失い、隔離施設の中で目覚める事は無いであろう状態に陥ったそうだ。 …光合成でもできればまだ幸せだっただろうにな。 そう口に出しそうになった主治医が特別倫理感が低かったわけでは無い筈であった。 当事者が言葉通りの「植物状態」というべき存在になってしまった今となっては。 「関内君、関内君…いや桜木町君だったか?」 「関内で合ってますよ閣下。ボケたんならもっとわかりやすいやつにしてください。」 美咲は心底どうでもいい感情を抱かせる上司へ侮蔑を含んだ視線を突き刺す。そして現状報告を続ける事にした…があまり聞く側の反応は芳しくない。...
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