ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー理知的選択と感情的選抜ー
- 5 日前
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それが今の君が持てる唯一の身分証明…「ピジョン・ブラッド」の一員である証というわけか。悲しいものだな。
哀れみとも同情とも取れない光を宿したその瞳は明らかに私を視界に入れていないことがわかった。
それによって伝わるのは侮蔑でも嘲笑でもない深い「失望」だ。
そもそも私に期待をかけてなどいなかったはずの彼はどのようにこの場を締めるかだけを考えているのだろう。
そして処断を下されたあと、私は自らの異能を関連記憶ごと封印されて「一般人」へ戻るのだ。
…かつて”特別な日々”を、”特別な自分”を夢想していたあの頃のように。
「毎度のことながらこの通達メールが届くと憂鬱な気分が増すわね。フォントだけでも可愛らしくしてもらえないかしら?そう思わない?鯨井教授。」
「フィールグッド…そんな事を言っているから面倒くさがられるのだろう。今回に限らずプロトタイプ「S」地区の不都合はまだ山積みなことを自覚してくれないか?」
ルカはヘレンのマイペースぶりに辟易しながらも情報共有の為のリソースを噛み砕く作業に戻る。
今喫緊の課題は異能発現の際の意識障害と人格調整について…と。
「それにしても今回のアプローチはなかなかに独特ね。ハードウェアとしての肉体の遺伝子コードだけでなく意識領域をも組み替えて発現する異能を選ぶことができる、か。しかし貴女の専門は海洋学ではなかったの?」
質問の意図を訝しむルカはヘレンの問いかけに素直に応じるべきかを一瞬迷ったが、ここで情報を出し渋って後々痛い腹を探られるのはまずいと考えて言葉を選ぶ。
「確かに私は海洋学のテリトリーの研究が主であることに違いは無いさ。今回の事も”生態系の血脈を探る”という観点からの副産物だからな。」
「それで宝石由来のコードネームをつけるのは乙女ねえ…しかし”生命の因果の由来を歪めて意図した運命を作り出す”というのはなかなかな越権行為よ?人間にとってはね。」
「それは大層なご挨拶だな。何も神様気取りの事をしたいわけじゃない。道を選ぶ自由があるならば使うに越したことはないだろう?」
…ヘレンの「絡み方」に対していささか気分を害したルカはそれだけを告げると席から立ちあがり白衣をまとう。すでにこの場においての情報共有の意義は無くなったのだ。
ヘレンはルカのサインを受け取り、にこやかに手を振ってお見送りをすることにした。
そして「紅玉の魔獣」と名付けられたそのレポートはヘレンのお気に入りの書棚の一番目立つところに収まることになった。

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