ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー理念と情念のコンセントレーションー
- 5 日前
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…まさかここまで融通の利かない構造だとは考えてもみなかったぞ?千頭君。
彼女は得意げにその手の中の錫杖を振るってご機嫌であることを示した。
そしてこのシステム管制室一面に展開された七色の魔導刻印は「神域」の主要ファクター全てが彼女の支配下にあることを示している。
これは目が覚めたら「あぁ、ひどい夢だったな」で済まないものだろうか?
さとりは目の前の事態を飲み込むことができずに狼狽しかけるも、懸命に思考を加速させて現状把握を試みる。
幾重にも張り巡らせてあった量子暗号や各種セキュリティはあの”リアライザー”でさえ全容を把握できない情報量だった筈。
しかし彼女は自らの観測した「現実」を思いのままに改編して見せた…世界の理さえ彼女の前に跪いた、というのがこの場の事実に他ならない。
それでも極めて個人的な心象風景が一個世界の実権をまるごと掌握するなどという奇跡は人の想定できる領域を遥かに超えている。まるで自分が絵本の中の登場人物にでもなった気分だ。
そう、物語の登場人物は創作者の決めた運命に抗える権利を基本的に持たされない。
決められた運命と背負わされた宿命のままに生きるのが定め…今の自分もそうなのかもしれない。
だが彼女の描いたシナリオの中で踊る自動人形というのが配役などというのは看過できないな。
さとりはあえて時間跳躍の異能でこの場を離脱するという選択肢を意識の中から消し、彼女の不遜な笑顔に視線を突き刺す。
それはさとり自身が今まで抱えていた「賢い選択」を振り切った証であった…ここから先の可能性は神でも「聖典」の著者でもこの場の支配者である彼女でもなく、私自身が示して見せよう。
さとりの纏う空気が明らかに澄んでいくのを目の当たりにした彼女はいかにもご満悦の様子で目を細める…目の前の少女がひとりの超越者としての扉へ手を伸ばしたことを祝福するかのようだった。
「それでこの場に私を召喚した理由についてはまだ説明が無いのですが、ちゃんと話をしていただけるのでしょうね?フィールグッド博士。」
「そうですね…ヴァルハラでの日々とか雄姿とかを聞くのは後にしますか。死乙女ヴァルトラウテ。
貴女にこのプロトタイプ「S」地区に来てもらった理由はここにある霊力炉の稼働に手を貸してもらう為です…と言ってもわかりませんよね。そう天界の勇士である貴女の力を少しだけ提供して頂きたいのです。大丈夫、わずかばかり貴女の力を流し込むだけで構いませんよ?」
この場において不自然なほどにこやかに言葉を紡ぐヘレンに対してヴァルトラウテはあまりにも不審に感じたものだが、この先の情報は自らにとって必須となる予感がしている。
無論自ら進んで死神の窯に入ろうなどという趣味はまるでないが、この場の霊的結界は天界…ヴァルハラのそれに近いものが構成されている。これほど清浄な儀式場を構えられる者が摂理に背く事は無いだろう。
ヴァルトラウテはわずかばかりの疑念を拭い去ると、霊力炉と呼ばれた設備に手を伸ばし同期を始めた…その中枢に揺らめく七色の魔導刻印が優雅にこの場を彩っていた。

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