ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー承諾と批准の蜜月交際ー
- 5 日前
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だからその時私は言ってやったのだよ…「昏き闇に蝕まれし汝の魂を我が権能で洗い流してやろう」と。
彼女は膨らみに乏しい胸を勇ましく張って語り続けた。その様は凱旋する英雄を称える合唱を求めているようでなんとも痛々しい。
そんな英雄譚らしきものをそこまで聞いて片頭痛の限界を迎えたディーナは意識を切って思わず天を仰いだ。
いや真面目に独自言語による新体系魔術を組もうとしていた頃に比べれば進歩はしているに違いない。
今の時代にバベルの塔を造れば国際世論の名を借りた過激派が喜んで集まってくるのは火を見るより明らかだ…そもそも秘匿されない魔術が人間社会に何をもたらすかは魔女狩りの例を引き合いに出すまでも無い。
そして神秘的な力が容認されていた時代の神話も語り継がれなくなって久しい今の時代。
この場において魔術関連の技能と才能だけで都市一つを稼働させることのできる人間は説明するまでも無く稀有な存在。
本来なら国家単位での保護と「運用」が成されるのが自然であるが、現実という名の世間事情はそれを許してくれない。
総じて魔術文化圏といえど彼女の生み出した数々のものを諸手を挙げて歓迎というわけにはいかないのである。
ディーナは脳内で自我を侵食しそうな情報の渦をそこまで整理し終えると用意させていたティーセットに手を伸ばして、ふと思い立った。
そうだな…その日の気分によって茶葉を変えるくらいの手間で概念変化の術式が行使できればこれは新たなアドバンテージの地盤になりうるのではないか?
そしてそれはこの世界の理を意のままに変えうる神域の力に届くものではないのか?
ディーナは自分の踏み込んだ領域の危険度に気が付くと同時にまとわりつくような視線を感じて彼女のほうへ振り向いた…
その時の彼女の心底嬉しそうな笑顔は百年間悪夢を見せそうなほど蠱惑的なものだった。
「それがそのとき彼女が提唱した”シャングリラ・プロセス”とやらの草案ということでいいのか?」
「そうだね。かのプロフェシー・ウィッチが視た未来図そのもの結果だから間違い無い…他に聞くことは無いのかなデイヴィス?」
質問を疑問形で返されて多少なりとも癇に障ったバレンシアだったが、相手は幼く見えても四元の魔導師の一人にして燎炎の二つ名を持つWIZ-DOMの特務戦力にして今回の雇い主の立会人でもある。
礼を失すればこの欧州から締め出されることは勿論、世界的な互助ネットワークからも弾き出されることにもなろう。それは文字通りの死活問題…そしてこの件を任せてくれたエスメリス卿の責任問題にもなる。
どうあがいてもバレンシア自身に判断の余地は用意されていない。許されているのは脚本通りに踊ることだけである。
苦々しい思いを噛み潰してイオに首肯を返したバレンシアだったが、それでもこのまま引き下がっては後々体のいい鉄砲玉役になる未来は確定であるので一応の釘を刺しておくことにした。
「プロミネンス殿…一応確認しておくが私の専門は悪魔を宿らせてその力を行使するというもので悪魔祓いは専門外だ。厄払いは極東の専門家に頼んでくれるかな?」
イオは安い挑発を含んだその言い回しを粛々と受け止めて一言だけ忠告を言うに留めた。
…しかしその一言がバレンシアの今後の宿命を決定づけた事を後日バレンシアは己が身をもって思い知ることとなった。

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