ギャラクシー”ジェネシス・コード”ー乖離と統合の融和路線ー
- 5 日前
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…陛下のこの評決に異を唱えるものなどこの場に居りますまい。そのすべてが至高の意思に基づいたものであるゆえに。
片膝をつき臣下の礼を改めて示したレイナが奏上したその言葉は、この謁見の間に満たされた沈黙と共に承認された。
続いて十将軍がその意に賛同の意思を表すのを見てフォルナの胸に違和感が広がる。
何だろうこの不快な胸のざわつきは。
帝室直轄部隊に名を連ねてからは数々の為政者や統制者を見てきたが、この場の主である”極星帝国”の皇帝という存在は明らかに存在の「在り方」が違っていると感じるのだ。
いや求心力やカリスマという観点から見ても、統率力や人心掌握についてもまるで非の打ちどころは無く理想の盟主と称えられる人物ではある。それは疑いようもない事実なのだろうが…
それでも、と疑問が沸き上がるのはフォルナの捧げる忠誠が至らないせいでは無いのだろう。
広大無辺の大地の隅々を統括し、各地の領主を悠々と臣下に抱えてなおかつ「異世界」への境界をも乗り越える超越者。
さらにはあらゆる因果や摂理をもねじ伏せてきたその力はあまりにも自分とかけ離れていると感じる。
それは従属させているというよりは支配しているという表現が当てはまりすぎるのだ。
そう、あちらの世界には「可能性の殻を破る」という能力者がいるという情報があった。
そしてその能力は人だけではなく魔獣や神獣、無機物にも影響を与えるという事だ。
中には神のごとき能力に目覚める者も珍しくないという…それではまるで創生神話の「造物主」ではないか?
フォルナの中に渦巻く思考は自我を侵食して体への指示権を奪おうとしてくる。
レイナ様やエラキス様はこの状況と陛下の能力について何も疑問は持たないのか?
その疑問はフォルナの意識を炙り続けてついには自分の足を動かすに至った。
…いつの間にか膝まずくレイナの背中が目の前にある。はっとして意識の所持権を取り戻したフォルナは自分に向けられた異質な視線に気づく。
反射的に片膝をついて自らの非礼を謝罪しようとしたフォルナは仮面越しの皇帝の瞳に射すくめられた。
その虚空とも虚無とも形容しがたいモノを見てしまったフォルナは体の統制権を失い崩れ落ちる…
そして自らの自我が体の外へ引きずり出されようとしたその刹那、彼女の精神は因果を超えた世界への扉を開けることとなった。
「それでアンタレスの容態はどうなっている?」
「統括官殿…そんな殺気立っていられると落ち着かないぜ。もっと医務室にふさわしい出で立ちにしてもらってもいいかい?」
「アルタイル…貴様にしか任せられないのでなければその魂はとうに彼岸を渡っているものと思うのだな」
ロュスはレイナの恫喝そのものの態度にたいしてやれやれといった様子で肩をすくめると状況の説明に移ることにする。これ以上機嫌を損ねると冗談抜きに剣の汚れにされそうだ。
「そうだね…まずは”真理の扉”を開けちまうような素質を持っていたのが災いしたようだね。まあそうでなければ今頃冥界の底で隷属されちまっていた筈。それでも影響を受けていた魂のほうは安定させておいたから大丈夫だ。これ以上の処置はシルマリル殿の領域だから勘弁してくれよ?」
レイナはあまりにも無作法なロュスの振る舞いに逆鱗を撫でられた気分であったが、この無礼者を切り伏せても厄介ごとが増えるだけと自制を促して息を吐いた。
「ああ、ご苦労だったな。貸しを作ったからには少しは便宜を図っておこう…少しアンタレスと二人にしてくれるか?」
その言葉を聞いてロュスはこの場の「貸し」をもっと吹っ掛けようとも考えたが、さっさと退散するほうが得策と打算を打って踵を返して立ち去った。
レイナはその無作法者の背中に怜悧な視線を突き刺した後、舌打ちをしてこれから対峙せねばならない「現実」を思い浮かべて窓の外を仰いだ。

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